2010年7月20日火曜日



も う2年ほど前になるでしょうか、友人の大工のAさんから、鉋をいただきました。

Aさんの建てていた家を見学に行ったときのことです。
我 が家がどこまでできたか話していて、「できることなら、鉋は使わないで済ませたかったけれど、どうしても必要になって、とうとう買ってしまった」と報告す ると、「えっ、鉋を使うようになったの。それはよかった」と、目を輝かせて喜んでくれて、「手伝えないから、せめてこの鉋を使って」と、大小二つの鉋をく ださいました。

大工道具の中で、使いこなすのがもっとも難しいのが、手鉋です。ピンからキリまであり、いい鉋は使うのと同じほどの時間 を、手入れに費やさなくてはなりません。
Aさんは、何度もテレビでとりあげられたような大工さんで、彼の削った鉋屑は、長くつながって、幅が一 定 で、厚みも一定で、あまりにも薄いので、向こうがきれいに透けて見えます。
そして、私の鉋屑はと言えば、お話しするのも恥ずかしいような代物 で す。

私は、建設現場や、建具屋さんに行ったとき、鉋の手入れ具合を見て、腕前判断の目安にします。腕のいい大工さんや建具屋さんは、 必 ず、手入れされたいい鉋を持っています。
といいながら、自分はどうか? 私の鉋は、刃にさびも出ているし、刃はまっすぐかどうか、人様には絶 対に 見せられないので、いつも目につかないところに隠しています。




A さんの鉋は、これまで見たこともない、気品の漂う鉋でした。それもそのはず、希少な、昔の刀だった最高の鋼(はがね)を使って、名のある鉋鍛冶が打った刃 を、厳選した京都産の樫を使って、Aさん自身が仕上げたものだったのです。




鉋 台はほどよい重さで、木は美しく、正目が通って、手に吸いつくようです。
固辞しましたが、Aさんは、「どんどん、使って」と、気にしません。 私も 夫も、青ざめてしまいましたが、見学に来ていた他の大工さんたちや、Aさんのお弟子さんたちは、とてもうらやましそうでした。




A さんは、よい道具によって自分はつくられ、より深い世界にいざなわれたと言います。道具が人をつくり、人が道具をさらによいものにしていくという相互作用 は、頭ではわかります。しかしそのことが身体でわかる日が、いつか私にも来るでしょうか?

この鉋の前には色あせて見えますが、Aさんに 話 した、思い切って買った鉋だって、それなりにりっぱな鉋で、私にはまだ、分不相応なものなのです。




と いうわけで、Aさんの、「使って」という期待にはとても応えられず、鉋は我が家の宝として、道具箱をつくって、納めています。
九州の赤樫でつ くっ た、鉋の刃出しをする木槌もAさんのお手製です。
Aさんは、100丁ほどの鉋を持っていらっしゃって、常時、10丁以上、建設現場に携えて いらっ しゃるそうです。

今は、電動鉋や電動サンダー、電動溝切りなどあるので、私でもなんとか大工をできますが、電動工具がなかった ら、きっと 手も足も出なかったことでしょう。

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