2011年7月23日土曜日

カンボジア、手づくりの箱





カンボジア人は、木工に秀でています。
農具にまで、さりげなく美しい木彫りをほどこしていますが、箱をつくるのも得意です。
カンボジアに暮らして、いろいろな木の「箱」に出会えたのは、箱好きの私には、とても嬉しいことでした。

この手のついた箱は、骨董市場の片隅で、埃をかぶっていたものです。
職人さんがつくった箱ではなく、たぶん素人の細工ですが、なかなかよくできています。




持ち手も、





留め金も、




そして蝶番(ちょうつがい)まで、すべて針金やブリキを利用して、手づくりしてあります。




持ち手を止めた針金は、蓋の裏で曲げてあります。

手に入れたとき、蝶番の釘が一本か二本なくなって、蓋がぐらぐらしていました。私は釘も金槌も持っていませんでしたから、なおしてもらおうと、大家さんのところに持ち込んでみました。

私 の大家さんはマルチ人間でした。公務員なのですが、建物の一階で画廊を経営していて、休日や、仕事から早く帰ったときは、絵を描いていました。100号も あるような大きなキャンバスも、額縁もみんな手づくりしていましたし、二階から四階までの貸している部屋の改装や修理も、全部一人でやっていました。

大家さ んの描く油絵は、海外に住むカンボジア人が、レストランや自宅の居間に飾るのに欲しがるような、アンコールワットや、カンボジアの農村風景などがおもでし たが、肖像画も描いていました。お客さんから持ち込まれた、小さな古い写真を、みごとに特徴を捉えた、大きな油絵にするのです。カンボジア人だけでなく、 タイ人も頼みに来ていたようで、タイの昔の王様の肖像画を描いていたこともありました。

大家さんの小学生の息子が、私の持ち込んだ箱を見て、
「これはなあに」
と、怪訝そうにお父さんにたずねました。
私は、クメール語がまるでだめで、この箱がなにか、大家さんに説明もできないでいたのですが、
「これは、骨董の箱だよ」
と大家さんが答えているのを聞いて、安心しました。
普通の人が見たら、壊れた、きたない箱にしか見えないものですが、さすが大家さん、わかってくれていたのでした。




すぐに釘を打っていただいて、箱はしっかりしました。

あれから十余年、最初はクメール語しかしゃべれなかった大家さんの息子は、私が帰国する頃には、大家さん夫妻と私の間で通訳してくれるほどに英語が上達していましたが、なんと今では日本に留学して、日本語の上手な大学生になっています。



2 件のコメント:

  1. 世界に連れ出さなくても、
    世界を想像させる日常。
    私も心がけたいです。

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  2. 鍛冶耕治さん
    コメントの意味が、残念ながらあまりよくわかリませんでした(笑)。
    廃物利用の手づくりの金具、いいでしょう?カンボジアですから、ポルポト時代につくられたのかしらとか、いろいろなことが想像されます。

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