2012年9月19日水曜日

ジョン万次郎


古い友人のAさんが、ブログで『ジョン万次郎』 (マーギー・プロイス著、金原瑞人訳、集英社)を紹介していて、おもしろそうなので、読んでみました。
ジョン万次郎の名前や、漂流して後に帰って来たことはもちろん知っていましたが、どんな人か、これまで興味をもったことがなかったのが残念なくらい、楽しめた本でした。

中学・高校の授業以来、近代史は、古代史や中世史ほどおもしろいものではありませんでした。
学年も終わりに近づいて、押せ押せになった授業に焦る先生の口から出る、たくさんの事象、年、固有名詞などを、何も考えずに詰め込む、というのが近代史だったような。

この歳になって、筧次郎さんの『自立社会への道』など、近代を考えるのに良い本の数々に出逢って、自分の中で初めて、近代というものがまとまった形をとってきて、腑に落ちているところです。
学校でも、近代史から中世史、そして古代史へと反対に教えたらいかがなものでしょう。

漁師の子ども万次郎は、14歳のとき嵐にあって、仲間四人とともに難破します。無人島生活も長くなり、いよいよ死に直面しはじめたところを、幸運にもアメリカの捕鯨船に救助されます。
利発で、いろいろなことに関心を持つ万次郎は船長に気に入られてアメリカへ。英語を習い、航海術を習い、しかし故郷に帰りたいという思いも強く、再び捕鯨船に乗って帰ることに失敗した後、西海岸へ金探しに出かけ、金をさがしあてて資金をつくり、最後は、親切に乗せてもらった中国行の船が日本に一番近いところを通ったとき、買っておいた小舟を洋上に降ろしてもらって、嵐の中、小舟を漕いで、オアフ島で探し出した難破したときの仲間とともに日本(沖縄)の岸にたどり着きます。
小説ですが多くの資料を使って、ほとんど史実に基づいて書かれています。

当時、外の世界を見た漂流者は、無事日本に帰りついてもスパイ視され、切り捨てられていましたが、万次郎の帰ったころは外が騒がしくなっていて、さすがにすぐ殺されませんでしたが、一年半も各地の牢に入れられ、牢はそんな漂流者でいっぱいでした。
その囚われていた期間を利用して、万次郎は日本語の読み書きを、初めて習います。

ジョン万次郎の好奇心と洞察力、ここぞというときの決断力。決して的を外さず、そのときそのときを精いっぱい生きる姿勢が、次の展開へとつながっていきます。

1853年、黒船がやってきたとき、万次郎は、日本人でたったひとりだけ英語の読み書きができ、世界地図や世界海図を頭に入れた、フィリピンなどアメリカ以外の地域も自分の目で見た、そしてなにより、アメリカの心を理解する国際人でした。
もし、ジョン万次郎がいなかったら、日本は開国の過程をたぶん誤って、もっと悪い方向に行っていたのではないかと、背筋が寒くなるほどです。


こちらがその元の本、『HEART of a SAMURAI』です。
児童文学者であり劇作家であるMargi Preusの初めての小説は、数々の児童文学賞を受けたようでした。
私の読書は、横になってから寝る前に読むだけですが、こちらも少しずつ楽しんでいます。

この本の中にある日本語の解説で、「いただきます」があまりにも的確に説明されていて驚きました。「いただきます」、「ごちそうさま」は、日本語の中で、もっとも意味深い、誇るべき美しい言葉ですが、最近、
「うちでは給食費を払っているのだから、給食のとき、子どもに「いただきます」、「ごちそうさま」と言わせないで欲しい」
と、お母さんが学校にねじ込んだという話を聞いて、唖然としたばかりだったので、なおさら身に染みました。



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