ちょうどお餅が届いたこともあり、
「お雑煮をつくるから食べて行って」
と、さそわれて、お言葉に甘えました。
見るともなく見ているとOさんは、のし餅を菜切り包丁で切っています。
「あら、菜切り包丁を使っているんだ」
「そう、私のというより、Mさんのね。お料理好きだったから」
「じゃあ、Mさんは出刃とか柳刃とかも持っているの?」
「うん、あるよ」
Oさんのお連れ合いのMさんは、三年前に亡くなられました。もともと音楽をやっていて、五十を過ぎてから鉄作家になられた方で、絵も字もうまい、何でもできた人でした。さぞかしお料理もうまかったのでしょう。
菜切り包丁を見たのは、とても久しぶりでした。
小さい頃、祖母が使っていたのは確かですが、母は使っていたでしょうか?母は文化包丁というか、三徳包丁を使っていたような気がします。
その日から、台所に立つたびに菜切り包丁のことが思い出されました。
私は、「売れ行きナンバーワン」とか、「みんな持っている」とかのうたい文句で、購買欲をそそられることはまずありません。でも、知っている人が、しかも素敵に使っているものを見ると、すぐに欲しくなります。私の弱点なのです。
ずっと昔、元職場仲間たちと集まって「お寿司を食べる会」を開いたとき、学生時代にお寿司屋さんでアルバイトをしていたMくんが、 大切そうに柳刃包丁を持って来て、お寿司をつくってくれたことがありました。
そのときはすっかり柳刃に魅せられ、しばらく買おうかどうか迷いました。
でも、なにせ魚をさばくのは一年に一回あるかないかのこと、何度か気持ちがむし返しましたが、思いとどまりました。ところが、菜切り包丁は毎日のものです。
「やっぱり毎日のことだから、気持ちいい包丁を使いたいかなぁ」
という気持ちが去って行きません。
というわけで、お正月明けにネットショップで菜切り包丁を見てみました。
「うっ、高い」
最初に見たものは超高額で、すっかり熱が下がってしまいました。ところが毎日、野菜を切るたびに、やっぱり菜切り包丁のことを思い出してしまいます。
しばらくして、落ち着いてネットショップ見ると、なぁんだ、手ごろな値段のものもいろいろあります。
迷うこと数日、とうとう決心して注文しました。
ところが、なかなか連絡がありません。どうなっているのかと思っていたら、一ヶ月ほど経ってからやっと払込金額の連絡があり、払い込みました。
それから、またもや何の音沙汰もありません。催促してみると、
「準備が整うまでお待ちください」
という返事でした。
きっと、今どき菜切り包丁を使う人がいないので、注文を受けてから、鋼を打つところからはじめたに違いありません。
注文から約二ヶ月、やっと包丁が届きました。
ちょっと刃がまっすぐではないような気もしますが、よしとしましょう。
今使っている、夫の母が遺した三徳包丁も決して悪いものではありませんが、多少雑に扱っても錆びたりしないものですが、この菜切り包丁は錆びそうです。
説明書を読むと、使ったらすぐ洗って拭くと書いてあります。
ただでさえ、たとえ料理が冷めようと、洗いものを先に済ませたい私ですが、これからは、包丁を洗って拭くために使うなんてことになりそうです。
説明書にはまた、鉈代わりにしたり、無理にこじったりすれば、刃が欠ける恐れがあると書いてあります。夫にはあまり触らせないようにしないといけません。我が家の果物ナイフはみな、どうしたことか先が曲がっています。
菜切り包丁には、東型と西型があります。東型は切っ先とあごの丸みが大きく、柄は太くて短いものです。
でも、私にとっての菜切り包丁は、西型です。
これで切れば白菜やキャベツの千切りは最高ですね、
返信削除でも私が書いたら可笑しいでしょー
子供三人育て何でも加勢しました。
今流行の男の料理には反対で、そんなことより並べたり、会話を楽しんだりの方が楽しい加勢と思うけれど。
私も菜切り包丁です。
(私の独断と偏見で)
昭ちゃん
返信削除菜切り包丁使っているんだ、さすがです!私は、小さい頃は菜切り包丁はたぶん見ただけ、これまで、手にしたことはそうないんじゃないかと思います。
でも、ままごとをするときに、使い古しの果物ナイフなのか、菜切り包丁型の包丁で遊んでいました。
菜切り包丁を使いはじめて、なんか、切ることがすごく豊かになりました。幸せを感じるというか、三徳包丁では得られない楽しさです。まあ、最初のうちだけだったりして(笑)。
こんな話で失礼を、、、。
返信削除娘たちがまだ家にいたころ、家内がきゅうりを刻んでいましたが途中から私が代わりました。
音が同じなので分からなかったそうです。
作るの好きです。
昭ちゃん
返信削除すごい!何にもしない男は無用で寂しいですからね(笑)、いい音を立てて菜切り包丁を使うなんて、かっこいいです。
もっとも、我が家では、何をされるかわからないので、菜切り包丁には触ってもらわず、これまで通り三徳包丁でやってもらいます。
以前気に入っていた包丁は、息子が刃を欠きました。なじると、「いいじゃん、そう高くないんだろう」ですって。悔しい(笑)。
二年前に亡くなった母のものを片付けている時に、まだ
返信削除使っていない菜切り包丁の箱を見つけて以来わたしも
菜切り包丁一筋です。
それまではペティナイフ型の包丁を使っていて、
菜切り包丁は古くさいイメージでしたが、使ってみて
あらためて菜切り包丁の使いやすさに目覚めています。
ちなみに、母は刃物の名産地、新潟県の三条の出身
なんです。
kuskusさん
返信削除kuskusさんも使っていらっしゃったのですね。私も、菜切り包丁は古臭いもの、もう過去のものと思っていました。でも、使ってみると本当に親指がしっくり収まって、手が喜んでいるのがわかります。
菜切り包丁があんまり使い勝手が良すぎたら、また柳刃包丁が欲しくなるかもしれません(笑)。アジでも何でもいいから毎日お刺身を食べよう、なんてことにならないよう、気をつけます。
三条の包丁ですか!値段を見ただけでため息が出ますよ(笑)。
うちのはため息が出るような高級品ではなく、ふつうに
返信削除昔の台所で毎日使われていたような菜切り包丁です。
私たちの若い頃はアメリカのエネルギーやヨーロッパの
洗練されたデザインにばかり目が行っていましたが、
やっと風土に根ざしたものに目を向けられる年齢になってきました。(笑)
遅いなー。
kuskusさん
返信削除ほんと、アルミのお玉しかなかった時代、洗練された欧米のデザインはきらきら輝いていましたね。でも私はお鍋は今でもヨーロッパ派です(笑)。フライパンはアメリカ派だったりして(笑)。
誰しも、「年の功」というのはありますね。私も、毎日知ることがあって、若い頃よりどんどん頭がよくなっている気がします(?)。まあ、失敗も含めて経験が増えて、脳に知恵がたまったからといって、全然どうってことはないのですが(笑)。
そういえば以前、イタリア人と結婚してイタリアの田舎で暮している日本人女性の家族の生活をテレビで見ました。イタリア人の旦那さんが、包丁は日本製に限ると言って使っているところが写されていたのですが、刃がぼろぼろに欠けていて、笑ってしまいました。骨とか、ぶった切ったのでしょうね。
なんか、細心の注意を払わなくてはよさを保てない道具がうっとうしかったこともありました。菜切り包丁は、せめて月に一回くらいは平らな砥石でしっかりといでやろうと思っています。