2019年5月6日月曜日

赤馬白馬


骨董市で、玩古さんのおやじさんのガラクタの入った段ボール箱に、「吉良の赤馬」の赤い馬が転がっていました。
白馬もいるかと探したら、別の箱の中にいましたが、白馬の方はずいぶん傷んでいました。湿気で膠(にかわ)が剥げているのです。
それでも赤白揃っている方がいいので、両方いただきました。


赤馬は、傷みはそこそこですが、虫に食われています。
吉良の赤馬のような練りものは、おがくずに正麩糊(しょうふのり)を混ぜて固めてつくるものなので、木くずがおいしいのか、糊がおいしいのか、たぶんどちらもおいしくて、虫に食われやすいという宿命を持っています。
ざっと包んでもらった包みを、帰って開けると、包み紙の中に細かい木くずが落ちていました。まだ虫がいるのでしょう。
これ以上虫に食われると、ボロボロになるだけでなく、ほかのおもちゃも狙われてしまいます。


というわけで、冷凍庫の中に数日置いて、キクイムシを凍死させることにしました。
小さいものなので、なんなく冷凍できます。


新しく迎えた赤馬白馬(中列の左)は、我が家にすでにいる「吉良の赤馬」の吉良さまの乗っていない赤馬と白馬より、大きいものでした。
しかも、なかなかの出来栄え、器量よしです。


元から持っていた右の馬(四代目の伊太郎さんがつくったものらしい)は、比べてみると、膠がうまく溶けていないし、胴のわりには短い脚が、特に後ろ足は変なところについています。個性と言えば個性ですが左の馬の方が颯爽としています。

さて、「みかわこまち」というサイトに吉良の赤馬のことが詳しく載っていました。


以下、「みかわこまち」の写真をお借りしました

それによると、吉良の赤馬は、吉良上野介義央公が赤馬に乗って領内を巡視した姿を、領内の駮馬村(まだらめむら)の清兵衛さんが木彫りにしてつくり、子どもたちに与えたのがはじまりと言われています。
その後、木屑を固めてつくるようになり、天保年間(1830-44年)には、柳右衛門さんに相伝されました。
吉良の赤馬は一時途絶えたりもしましたが、清助さん(柳右衛門さんの子孫かどうかは不明)、その息子の田中伊太郎さん(四代目)が世に広め、伊太郎さんの息子清一さん(五代目)のころには、郷土玩具として全国的にも注目されるようになりました。
ところが清一さんは若くして他界します(没年は不明、戦後まもなくか?)。


彩色中のゆきさん

病に臥せっていた清一さんは、嫁ぎ先の東京で空襲にあい、家を失ったため実家に身を寄せていた妹のゆきさんに赤馬の木型を渡し、後を託しました。
吉良の赤馬は、全部手びねりではなくて、頭と胴を型で抜き、それに手で脚をつけ、耳は竹串を差し、彩色して仕上げるのです。


七代目早夜子さんと色塗りを手伝う娘の裕美さん

ゆきさんの一人娘、早夜子さんは地元のデパートに勤めていましたが、ゆきさんが高齢となったため、生地を練る仕事を手伝うことになり、やがて勤めをやめて、人形づくりに専念します。ゆきさんの指導は厳しく、何度も出来上がったものを捨てられたりしました。
早夜子さんは20年近く、厳しい母ゆきさんのもとで修業を重ねて、母亡きあと(没年は不明)七代目を継ぎます。
早夜子さんは人形づくりをかけがえのないものと思い、「娘の裕美にも、母の教えを伝えていきたい」と語っていましたが、裕美さんにまだ全てを伝えていない2004年に、他界してしまいました。



その裕美さんは、母の死の一か月前に夫を亡くしていました。
重なる不幸で何も手につかず、赤馬のこともすっかり忘れていましたが、母の死から一年も過ぎたある日、北海道から電話が入りました。相手は祖母や母の代からの赤馬の愛好家で、母の死を告げると、「あなたのつくったものも欲しいから、やめないでほしい」と、熱く語りかけてくれたそうです。

それに励まされて、それまで色塗りの経験しかなかった裕美さんは、祖母や母の仕事ぶりを思い起こしながら、試行錯誤で生地を練り、木型にはめ、木型から抜いて指先で馬の形に整えていく、気の抜けない手作業をはじめました。  
吉良の赤馬は、木くずと正麩糊を練って、木型にはめ込んでつくったものを、約2か月間、日陰干しと日なた干しを繰り返し、最後に下塗りと上塗りをして完成させる、一つつくるのに、最低でも3か月はかかるというものです。

2007年に、裕美さんの娘の美春さん(当時中学3年生)は、産業振興協会主催の作文コンクールで、会長賞を受賞しました。
作文のタイトルは「吉良赤馬九代目として」でした。裕美さんは一度も継いでほしいと言っていないのに、作文には、「母の姿を見ていて、私もつくりたいと思った。いつか母を越えたい」と書いてあったそうです。
というわけで、吉良の赤馬は安泰、脈々と続いています。






2 件のコメント:

  1. 春姐さんコメント有り難う
    軽石を浮かべるときに「木炭」も、
    石炭と木炭はどちらも同じ木ですが、、、、
     

    返信削除
  2. 昭ちゃん
    やってみます(^^♪
    むしろ、石炭が沈むのが不思議かもしれません。

    返信削除