2019年12月7日土曜日

エストニアの生き方

若宮正子さんのお話を聞くまで知りませんでしたが、エストニアは世界で初めて、電子国家となった国です。


国民ID制度を導入、政府がすべての国民に公開鍵暗号チップ入りのIDカードを発行していて、15歳以上の国民に保持を義務づけています。
運転免許証、健康保険証、交通機関の定期券などの機能がすべて入ったIDカードで、これ一枚で行政サービスをはじめ、銀行振り込み、個人所得税の申請、国政選挙、会社登記など、すべてオンラインで済ますことができます。

エストニアが電子政府国家として成功した要因は、大きくは3つに分けられます。
一つ目は歴史的な背景、二つ目は地理的要因、そして三つ目は政府の推進方針です。


1991年、ソヴィエト連邦の崩壊によって独立を達成したエストニアは、国の立て直しが急務でしたが、さしたる産業もなく、資源も限られていました。しかし、ソ連時代に、旧ソ連と東欧社会主義国の間では、「経済相互援助会議」という体制が構築されていたことが、エストニアの幸運につながりました。
それは、連邦内の各国や、東欧諸国がそれぞれ一つずつ産業を担い、相互に経済を援助する体制で、バルト三国の中では、エストニアがIT関連を担っており、ラトビアは自動車や造船、リトアニアは電子産業を分担していました。
エストニアには人工知能などを研究していた、最先端技術の研究所(サイバネティクス研究所)があったのです。独立後も、研究者たちは残りました。

電子政府となるにあたって、バルト海をはさんだ隣国フィンランドの存在がありました。
上記のように、ソ連時代の遺産として、エストニアには優秀なITの人材がいたので、独立後、ノキアをはじめとするフィンランドのIT企業が進出してきました。そして、その経済効果は大きいものでした。
フィンランドは、エストニアが国民IDカードを導入するよりも以前に、ICチップつきのIDカードを導入しようとして、国民の賛同を得ることができず失敗していました。その教訓からフィンランドはエストニアに対して、「IDカードの所持は義務とするべきだ」と強く勧めていました。
当初は、エストニア政府内にも、「義務化は、政府による過度な押しつけと国民が猛反対するのではないか」という懸念がありましたが、今となってはその勧めを受け入れたことが非常に効果的だったと振り返っています。

独立以後、政権は幾度となく変わりましたが、IT推進の戦略はゆるぎないものとなっています。
政府が常に掲げるキーワードは「効率」と「透明性」で、透明性以外に電子政府の信頼を構築する方法はないと考えています。
透明性を最優先したデータのマネジメントとガバナンスは、法制度として確立しました。政府の公文書はもちろん、政治家の収入や個人献金額もすべて公開されているので、国民はインターネットで簡単に閲覧することができます。また、情報を公開できない場合は、理由の明記が義務づけられており、行政による徹底した情報の開示で、透明性が担保されています。
ほかにも、電子化の推進にあたり、公共情報法(Public Information Act)や、個人データ保護法(Personal Data Protection Act)、電子署名法(Digital Signature Act)などが施工されています。


ソヴィエト連邦は崩壊しましたが、エストニアにとって隣接する大国ロシアの脅威はなくなったわけではありません。
歴史的に何度もの被支配を経て、「いつか国土が他に支配されるかもしれない」という危機感は、政府はもちろん、国民一人一人の頭にもあります。
それゆえ政府は、例え国が侵略されて、物理的に「領土」がなくなったとしても「国民」のデータさえあれば、国家を再建できると考えました。あらゆるデータを国内だけでなく、国外の大使館にも保管する「データ大使館」の構想を進めており、2018年にルクセンブルグにある大使館に、最初の拠点が開設されました。
たとえ領土を失ったとしても、IDカードを持っている国民は「データ大使館」にアクセスすることで、エストニアは国として機能することができると考えられています。
武装などに頼らない、究極の安全保障というわけです。

この文脈で、エストニアは外国人にもエストニアの国籍を取得することを奨励しています。国民の数が多ければそれだけ声も大きくなるというもの、今では約5万人の外国人がこれに賛同してエストニアID保持者となっており、若宮正子さんもその一人というわけです。
エストニア国民としてのIDは、犯罪歴などがなければ誰でも取得することができ、エストニア国内で起業することも簡単になるそうです。

これは、領土にこだわらない、未来の地球の生き方の先駆けだと思いますが、もし世界中が電子国家へと向かったとしても、極東の島国で、情報の透明性とは程遠いところにいる日本は、後れを取るのではないかと思われます。








10 件のコメント:

  1. 姐さん北欧は今次大戦でいろいろな立場や被害に巻き込まれ
    国境の接点が無い日本人には想像できませんね。
    偉いお坊さんは紛争地になぜ行かないのー  笑い

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  2. 昭ちゃん
    日本は孤立した辺境の地ですからね。別の言葉で言えば、「地の果て」ですから、占領されることもなくやってきました。
    イランの人が言っていましたが、新しい文化に覆われるたびに古い文化は根こそぎなくなって、発酵することなく消えていく、伝統的なものは今では何もないそうです。
    なかなか、想像はつきませんね。

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  3. 姐さん第二次世界大戦の始まりは昭和14年9月マジノ線を突破してフランスに侵入したナチスドイツですよね、
    フランスを下したあと逆転しポーランドを下しソビエトに進攻両面作戦になります。
    日本も日支事変からアメリカと開戦広範囲の地域が戦場に、いろいろな説は置いといて。
    中国でも日本と中国の間に毛さんの東征が始まり勝った方が歴史をかえます。

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  4. 昭ちゃん
    せめて日本から、平気で嘘をつく、嘘をつかれてもすぐ忘れたり許したりする、という文化がなくなって欲しいです(笑)。
    政治家や役人の嘘を、家族はどう見ているのだろうと、いつも思ってしまいます。
    原発についても嘘ばっかり、透明性なんて到底確保できません(涙)。

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  5. 姐さん私が今関心を持っているのは「原発汚染水の今後と憲法改正」です。
    短絡する人がいるのでこれ以上はお任せ。

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  6. おはようございます。
    バルト三国については、ソ連の圧政に苦しんだ小国という印象しかなかったのですが、最近ラトビアやエストニアの伝統的なニットを目にし、美しい街の写真を見て、どういう国なのだろうと気になっておりました。
    なるほど…そういうことがあるのですね…。ありがとうございます。世の中の色々知らないことだらけです。

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  7. 先日、マイナンバーカードの取得が全く進まないと新聞かなにかで読みました。私も持っていませんが。エストニアとは対極ですね。やっぱり大陸の人たちの意識って違うんですね。
    昨日テレビのニュースで、アップルストアにいる若宮さんの映像を見ました。もうすっかり知り合いのような気分で見てしまいました(笑)。

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  8. 昭ちゃん
    ごめんなさい。コメントに気づいてないとhiyocoさんから指摘されるまで、気づきませんでした。

    原発汚染水の問題はひどいものですね。日本にはエストニア(や北欧諸国)と違って、基本的に「隠す」という体質があるので、ほんとにどうなっているかわかりませんね。いったいどのくらい漏れているのか。どのくらいの人が健康障害を起こしているのか。増え続けてどうなるのか。
    せめて、透明性を求めたいのですが、どうしてそんな単純なことが遠い道なのでしょう?
    プリントアウトしたものをシュレッダーにかけて、名簿はなくなったで通用する世の中、おかしいです。

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  9. karatさん
    私も知らないことだらけです。
    ラトビアの籠やニットについては知っていますが、エストニアのニットは知らないし...。
    小国の生き残りとして、武器にお金をかけるのではなく、エストニア人つまり「人」を大切にするのは素晴らしいことです。日本なんて、「人」を経済活動の駒としか見ていないようなところがあります。

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  10. hiyocoさん
    日本のマイナンバーは政府に都合がいいだけですが、エストニアのマイナンバーは国民にいろいろな利点があるよう作られているそうです。しかも、シークレットで勝手な番号をつけられるのではなくて、生年月日とか男女とかを組み込んだマイナンバーだそうです。
    次に電子国家になりそうな国はアゼルバイジャンだとかジョージアとからしい、やはりロシアに苦しめられた国です。
    若宮さんのお話では、エストニアには各国の視察団が来るのだけれど、日本からと言ったら最初嫌な顔をされたそうです。というのは、日本から視察に来る人は、「さぁ、全部教えてください」という態度で、ただ視察に行ったという実績作りの人ばかりだったそうです(笑)。あり得ますね。
    ところが彼女は「高齢者にどう受け入れられたか知りたい」と目的を持っていたので喜んで教えてくれたとか。
    若宮さんは気さくな方、しっかりお友だち気分でいてください(笑)。

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