2021年2月20日土曜日

料理本


佐藤雅子さんの『私の保存食ノート』(文化出版局、1971年)は、画期的な料理本でした。
それまでも料理本があったかもしれませんが、基本、料理は母親から教えてもらうもの、新しい料理は新聞のコラムや雑誌の特集を見てつくるもの、雑誌の付録の料理本は取って置いて、ときおり参考にするようなもの、という感じでした。
私も結婚したとき母から『主婦の友』の付録の料理本を1冊もらい、それをガーナにもアメリカにも持って行きました。
『私の保存食ノート』は、レシピも役に立ちましたが、随所にエッセイがちりばめられていて、一つ一つの料理の背景や佐藤さんの丁寧な暮らしぶりが伝わってくる、隅から隅まで楽しめる本になっていて、新しい料理本の幕開けといったものでした。


当時から今に至るまで、保存ビンとか甕とかは決まりきった、魅力のないものが多く、なかなかこれはというものには出逢えませんが、この本には垂涎の保存容器が多数紹介されていました。


また、自作の木彫りの小物も、素適なものでした。


お連れ合いである佐藤達夫さんの高齢のご両親のお世話をしながら、三度の料理を丁寧につくり、その合間に手の込んだお皿や額縁をつくるなんて、佐藤雅子さんはなんと超人的な人か、と思いながら読んだものでした。ちなみに、佐藤達夫さんは、日本国憲法の草案を書いた方、植物の精密画集も出されている、やはり多彩な方でした。
ついで出版された『私の洋風料理ノート』(1973年)にも、素適なエッセイがたくさん掲載されていました。
こうなると、文化出版局の料理本は面白いと思ってしまいます。


というわけで、ホルトハウス房子さんの『私のおもてなし料理』(1972年)や『私の西洋料理控え』(1976年)、エッセイストとしても料理好きとしても知られていた石井好子さんの『ヨーロッパの家庭料理』(1976年)など、次々と楽しみました。


『私のおもてなし料理』は、お客さんをするときの取り合わせなどが参考になりましたが、なにせ豪華すぎて、当たり前ですが普段の料理にはあまり参考にはなりません。
しかし、エッセイの方はとても参考になりました。「私の台所整理法」は、汚れを見つけたらすぐその場で拭くといったものでしたが、汚れを何度も見ているうちに目に入らなくなる私には参考にはなりましたが、その後活かされたかと問われれば、お恥ずかしいものがあります。


『私の西洋料理控え』も、久しぶりに見るとじつにおいしそうですが、今の私は、ひたすら手抜き料理を目指しているので、とうていつくれそうにありません。


さて、佐藤雅子さんやホルトハウス房子さんの料理本を引っ張り出して、料理をつくることはもはやなくなりましが、それより時代が下がっての、『アラブのエスニック料理入門』(ジャミーラ高橋著、千早書房、1994年)、『タイ家庭料理入門』(うめ子ヌアラナント、安武律著、農文協、1991年)、『家庭でつくるインド料理』(ミンナ・カピラ著、オフィス・トゥー・ワン、1983年)などは、ネットでレシピが簡単に手に入る今でも、バリバリの現役、折に触れて参考にするものです。
何度もつくって覚えている馴染みの料理でも、気がつくとすぐに自己流にアレンジしてしまうので、基本にかえりたいときは、これらの本を開いて、できるだけ忠実につくってみます。それぞれの本には、何度もつくったお気に入りのレシピがあります。


記憶をたどってみると、私が初めて買った料理本は、『私の保存食ノート』ではなくて、アメリカで暮らしていたとき買った『New York Times Cook Book』(1961年)でした。
『主婦の友』の付録1冊ではオーブン料理もお菓子もつくれません。1冊買うにはどんな料理本がいいかと誰かに聞いて、勧められて買ったのがこの本、700ページ以上ある、辞書みたいな料理本でした。
アメリカの婦人雑誌に載っているレシピは、「キャンベルトマトスープ」など特定の材料を使ってつくるものが多い中、『New York Times Cook Book』のレシピは、生の素材とシンプルな調味料を使ってできるものばかり、ニューヨークタイムスに長年掲載されてきた料理の集大成の料理本でした。
つくり方もシンプルなので参考にはなりましたが、まったくと言っていいほど写真がないので、ぱらぱらと見てその日の献立を考えるというわけにはいかないし、できたものが正しくできているのかもどうかわかりませんでした。例えてみれば、きんぴらごぼうを一度も見たことも食べたこともない人が、文だけ読んできんぴらごぼうをつくっているようなものだったかもしれません。
この中のレシピで、一番回数をつくったのはシュークリームでした。きれいに膨らむし、アメリカではシュークリームを売っているのを見たことがなかったので、重宝しました。


ネットでレシピを検索するのが当たり前の今でも、料理本は出版されています。
しかし、よっぽど特徴がなければだれも買わないことでしょう。昔はよくあった、「日本料理の基礎」とか、「中華料理の基礎」などというものは、すべてネットで見られるので必要ないし、ネットではたくさんのレシピを比較して、いいとこどりすることもできます。
となると、料理本は、とても珍しいレシピが載っているものか、あるいは写真集のように美しいものでなければ、誰も手に取らないかもしれません。
『モロッコの食卓』(エットハミ・ムライ・アメド、寺田なほ著、PARCO出版、2010年)そんな一冊、ページをめくるだけで美しい写真がモロッコへといざなってくれます。




 

8 件のコメント:

  1. アメリカの料理本、分厚過ぎてびっくり!でもこれ今でも人気らしく、ちらっとアメリカのアマゾンを見てみましたが、今でも人気らしく、古いのがボロボロになったので新しく買い直しましたレビューが複数ありました。
    ホルトハウス房子さんのキッチンを雑誌で見たことありますが、隅々まで神経が行き届いていてすごいなーと感嘆するばかり。真似できません(笑)。鎌倉山のお店は今もやっているようですが、1ホール1万5千円のチーズケーキは一生食べる機会ないと思います。
    文化出版社の料理本、おしゃれで好きです。

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  2. hiyocoさん
    文化出版局の料理本が好きでしたか!!!あの本は画期的でしたね。もっとも、hiyocoさんとは時代が違うような気もするけれど(笑)。
    ホルトハウス房子さんの献立には、どれもケーキがついていて、どれも美味しそうですが、どれもつくったことがありません。1万5千円もするなら自分でつくった方がましと思いますが、難しそう!私、考えてみたら1ホール3千円のケーキも買ったことがありません(笑)。
    ピカピカのキッチンにあこがれますが、毎日隅から隅までピッカピカにするなんて、1日もやれません。積み木崩しですものね。
    あ~あ、ジグソーパズルをやる暇はあるのに、掃除をする暇がない怠惰な日々(笑)。

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  3. hiyocoさん
    私もAmazon USAでNew York Times Cook Book見てみました。レビューを見ると、古いレシピが削られて、大したことない新しいのがつけ加えられているという不満を漏らしている人もいるようですね(笑)。
    確かにジャガイモ料理など、順番につくってみたらとてもよさそう。と言ってもつくらないだろうけれど(笑)。

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  4. hiyocoさん
    なんと私の持っている古い本は146、172円しています!!!
    すごいよ。料理本長者だよ(笑)。

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  5. 文化出版局の料理本懐かしいです!
    繰り返し写真を眺めながらいつか作ろうと思いつつ、やはり実際作ったのは。。。のクチです(笑)
    食欲旺盛な孫が遊びに来る時に、あの本の料理だったら面白そう、と時々思い出すけど作らない、「世界の食卓から1000皿の料理」を久々に取り出してみたら、これも文化出版局でした。
    こちらはスーパーの一角の古本市で、とても安く買った本ですが、改めて開いてみると、当時地方では手に入りづらいと思った食材も、今は近くのスーパーでも普通に売ってるものが多くて、その気さえ出せば、大半が作れそうでした^^

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  6. 文化出版社じゃなくて文化出版局だったのですね!今気が付きました。しかもあの新宿の文化学園の出版部門だと今知って衝撃を受けています。だからおしゃれだったのか!私が思い浮かべたのは最近のシリーズで、「ル・クルーゼで作る」とかひとつのテーマに特化した薄めの料理本です。保存食ノートじゃなくてすみません(笑)。
    satoさんの「世界の食卓から1000皿の料理」も春さんのNew York Times Cook Bookに負けず劣らず図鑑みたいでびっくりしました(8,700円という元の値段も!)。New York~は18ドルのしか見つからなかったけど、14万越えは新品同様なんでしょうね!

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  7. satoさん
    お久しぶりです。
    『世界の食卓から1000皿の料理』は知りませんでした。出版された1981年ころは日本にいませんでしたが、そのころから西洋の料理だけでなく世界の料理が注目され始めたのですね。
    1979年にタイで暮らし始めたときは、こんな料理が地球上にあったのかと衝撃的でしたが、今ではガパオ(カオパックラパオ)もカオマンガイもインスタントの素さえ売られている時代になりました。
    hiyocoさんが古本が8,700円と言っていますが、私が見たサイト(Amazonだけど)では23,980円でした(笑)。
    手に入る食材の豊かさ、すっかり変わりましたね。私が学生のころ、ピーマンでさえ青山の外人向けのスーパーでしか売ってなくて、アメリカ人と結婚した友人の家、生まれてで初めて食べました(笑)。オクラもなかったし。

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  8. hiyocoさん
    親しい友だちの母上が、文化服装学院で有名なデザイナーを何人も育てた方だったこと、わりと近くに住んでいたことなどから文化出版局のことは当時からよく知っていました。とくに『季刊銀花』は渾身の力で出版していました。私もほぼ全巻持っているし(笑)。だから、文化出版局と聞くと、新宿西口のわらわら女の子たちが歩いている文化服装学院の姿と結びつけて考えることは、あまりないです。ただ、『装苑』とか『ミセスの子供服』という雑誌にはお世話になりました。
    昨日は慌てて何回もコメントして、落ち着いてみたら新品が14万越えですが、古書は2千円台からあるのを見つけましたが、しつこいので書き足しませんでした(笑)。
    そうですよね。料理本だから汚れている、そんなのが14万円もするはずがありません(爆)。

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