2022年3月24日木曜日
ディエベド・フランシス・ケレ
プリツカー賞は、建築の芸術性を通して、建築業界および人類に多大な影響を与えた、存命の建築家に対して授与される、建築界のノーベル賞とも言われている賞です。
2022年のプリツカー賞には、ブルキナファソ生まれのディエベド・フランシス・ケレ(65歳)が、アフリカ人として初めて受賞しました。
ブルキナファソの小さな村に生まれたフランシス・ケレは、少年時代に大工仕事を学んで、いつかもっと立派な、そして涼しい建物を造ることを夢見ていました。
1985年、ケレは大工の職業訓練の奨学金を得て、ドイツのベルリンに渡りました。日中は屋根と家具の作り方を学び、夜はその他のクラスを受講する生活を送り、1995年にはベルリン工科大学の奨学金を勝ち取り、2004年に建築の上級学位を取得しました。
受賞のきっかけとなったプロジェクトのひとつ、2001年に故郷のガンド村に建設した小学校です。
この学校の建設費用は彼が募った寄付で賄い、地元で採掘される粘土でつくった圧縮レンガを使い、地元の人々の手を借りてつくったもので、冷たい空気を室内にとどめると同時に、天井を覆うレンガから熱を逃すことで、エアコン設備なしに快適な室内環境を保てるように設計されています。
高いところに設けた張り出し屋根(オーバーハング)が、レンガの天井から熱を逃す作用を担っています。
この新しい校舎建設により、ガンド村の小学校の生徒数は120人から700人にまで増加したそうです。また、これをきっかけに、教師用の住宅と図書館も建設することになりました。
このプロジェクト以降、財団をつくって寄付を募り、その地域の資源を使い、地域社会の発展に資する建築をつくることが、フランシス・ケレの特徴となりました。
上の写真は、2016年に建設した、ブルキナファソ、クドゥグのリセ・スコージ中等学校です。
リセ・スコージ中等学校は、集会に使われるコミュニティースペースの建物を中心に、9つの建物群で構成されています。
縦に並べられたユーカリの木のフェンスが日除けとなり、生徒と教員が憩う、落ち着いた空間を生み出しています。
クドゥグのリセ・スコージ中等学校の増築部分、ブルキナ工科学校(2020年)です。
建設現場で成形した日干しレンガが、教室の内部空間を涼しく保ち、コルゲート鋼板の傾斜屋根は、ユーカリの木の幹で裏打ちされています。
屋根に落ちた雨水は地下の貯水槽に集められ、敷地内にあるマンゴー畑の水やリに利用しています。
これは、ブルキナファソのレオにある、外科クリニック+ヘルスセンターの建物です。
外科施設、入院病棟と、産科が併設されています。
その病院で働く研修医とボランティアのための宿泊施設、この写真だけではよくわからないのですが、外科クリニック+ヘルスセンターは、この写真の手前にあるのでしょうか?
病院の建物も宿泊施設も、圧縮レンガに漆喰を塗って、さらなる遮熱を目指すと同時に、レンガの風化を防いでいます。
写真だけではわからないのですが病院ですから、ソーラーパネルなどが設置してあるのだと思われます。
2014年の暴動の際に破壊された前の議事堂の代わりとして計画されたブルキナファソの国会議事堂は、段差と格子が特徴的なピラミッド型の建物で、127人収容可能な会議場を有しています。
これは、現在建設中のベナンの国会議事堂をの完成予想図です。
これ以外にもフランシス・ケレの建物は、マリ、トーゴ、ケニア、モザンビーク、スーダンなどのアフリカ諸国で見ることができます。
また、アメリカやヨーロッパ諸国で、数々のイベントのパビリオンやインスタレーションを見ることもできます。
プリツカー賞の発起人であるハイアット財団のトム・プリツカー会長は、
「フランシス・ケレは、すべてが不足している土地で、地球環境と住人の持続可能性を追求する、建築界における草分け的な存在です」
と評価しています。そして、
「彼は建築家であると同時に、世界から取り残されている地域に暮らす無数の市民の生活向上に奉仕する人間なのです。ケレは、美、慎み深さ、大胆さ、発明力が包括された建築作品を通して、この賞が掲げる理念を優雅に体現しています」
と称賛しています。
これまでのプリツカー賞を受賞した建築家達とは一線を画する、受賞に相応しい建築家です。その土地を知り尽くし、どの様な建築が必要とされているのかを理解し、地産・自力建設で実現する。素晴らしいです。
返信削除reiさん
返信削除こんな気持ちの良い学校で学べる子どもたち、こんな病院で出産できるお母さんたち、毎日の生活がより楽しいものになっているに違いありません。
今は、すべてエアコンを前提とした建物が世界中を席巻しています。でも、エネルギーの過使用が地球に負荷をかけているし、援助で箱モノや機器は揃ったものの、維持費がかかりすぎてまったく使いこなせていない病院なども、世界のあちこちにあります。
フランシス・ケレの病院ではパッシブソーラーなどを使っているようですが、持続可能なエネルギーがどんなにありがたいことか。
私的には、マリにつくった博物館に関心があります。博物館は収蔵しておくものによっては温度管理が最重要になりますよね。でも、正倉院のような、エアコンを使わないでも何百年も紙や布を収蔵して置ける建物だってないわけではないのだから、建築家はもっともっとエネルギーを使わない建物をつくることに向き合う必要があるんじゃないかと思います。
このところ、どちらを向いても暗いニュースばかり、それをちょっと吹き飛ばすような、明るいニュースでした。
素晴らしいですね。ハッとしました!!!
返信削除リセの廊下が楽しそうです。
病院もリラックスして休めそうな、優しい感じ。
今日、地下にある放射線治療室というところに初めて行きましたが、凄く、へんてこりんなインテリアでした。
写真を撮って暴露したいぐらいですが、なぜ、あんな色と、エセな見栄えになってるのか不思議です。目的は放射線治療への緊張をほぐすためと思われ、治療室にはBGMも流れていました。
古い病院だからかもですが、内装は改善できるはず…とか思いつつも、早くこの修行から足を洗いたいと初日から思いました。
造るなら心して造らねばないない、という駿介先生の言葉を思い出していました。
afさん
返信削除確かに、心を入れてつくった空間というものは、(日本には)少ない感じがします。
心を入れてつくるには、ケレのように「涼しくする昔の知恵が新しい建築にどう生かせるか」など、その風土ではぐくまれた先人の知恵を考えながら生かし、そして先人の知恵を越えていくという作業が必要と思われますが、そこのところがぶち切れているので、へんてこりんになってしまうのでしょう。
放射線治療は、景色のいい窓辺で雲でも眺めながらやりたいものですね。そうすると、元気が湧いてくるんじゃないかしら。
>その風土ではぐくまれた先人の知恵を考えながら生かし、そして先人の知恵を越えていく
返信削除正に今、それを実践するために建築に必要な知恵を説く月1回の講座を受けています。講師は「春夏秋冬のある暮らし」の著者金田正夫さんです。
reiさん
返信削除わぁ、そうなんだ!いいですね(^^♪
確かに空調で春夏秋冬のある暮らしを平均化して、年中変化のない生活をすることをみんなで目指してますね。今からでも、季節を感じることを喜びとする生活を取り戻すことができるのかしら?
人間を植物に例えると、「温室から出よ!」ということですね。