足尾山の上り口の集落には、足の病気平癒を願って足尾山に登山した人々が泊まった、旅籠が何軒かありました。明治に入ると、登山する人は減り、旅籠は廃業しましたが、今も昔の面影を残している家があります。
その一軒、Wさんの家です。看板は昔のまま、残してあります。
Wさんは、家も庭も手入れを怠りません。いつ行っても庭木が見事に手入れされ、古い縁側は拭き込まれ、障子紙は白くて、きれいに張られています。住みやすいように改築した部分もありますが、残している部分もたくさんあります。屋根は昔ながらの、萱葺き屋根です。
萱屋根は、乾燥させておくと長持ちしますが、今日の生活では、かまどや囲炉裏を使わないので、昔より早く傷むようになっていて、15年から20年に一度の割合で、葺き替えしなくてはならないようです。Wさんも、今年に入ってから、屋根の一部を葺き替えました。
左手のお座敷部分の屋根の棟木は、竹でできていますが、右手の旅籠部分の棟木は、木でできていました。旅籠部分の棟木、形は昔のままですが、今回新しく葺き替えたときに、古い木を、トタンで被ったそうです。
棟木の先端の、もっとも目立つところは、節に色を塗った竹で、美しく装飾してあります。
これは、この地域独特の様式です。萱葺き職人さんたちは、ここを美しく見せるために、競って腕を振るったようでした。
屋根の下端にも節に漆喰を塗った竹を挿して装飾しています。昔は、泊まり客が手すりに手ぬぐいを干したりしたのでしょうか。
屋根の下端には、古い萱の層が幾重にもなっているのが見えます。
この十年、八郷の中では、ずいぶん萱葺き屋根の家が取り壊されて、瓦葺きの家に建て替えられました。
Wさんも、子どもにも家に関心を持ってもらいたいし、さりとてよけいな苦労はかけたくないし、複雑な気持ちのようです。
コウヤマキの実
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