2010年9月29日水曜日

台所道具 アラブ料理編



所変われば、料理が変わる。料理が変われば、料理道具が変わる。
市場をのぞいてみて、使い方も知らなかった料理道具が見つかるのは、とても楽しいことです。

パレスチナの、東エルサレム、ベツレヘム、ナブルスなどには、城壁に囲まれた、旧市街があります。車の入れない、石畳の小路は入り組んでいますが、石を積んでつくった古い家も入り組んでいて、部屋が小路の上に張り出していたり、おやと思うところに、らせんの石段があったりします。旧市街は、住んだこともないのに、なんだか懐かしい、不思議な気持ちにさせられるところです。
小さな商店が並ぶ一角は、いつも買い物客でごった返していて、アラブ・コーヒーに入れるカルダモンの匂いや、他のスパイスの匂いがあふれかえっています。日常生活に必要なものは、なんでも手に入りそうでした。

そんな旧市街で見つけたのは、ズッキーニやナスなどの野菜に穴をあけて、ドルマ(マハシー)をつくるための道具です。
ドルマは、お米とひき肉やタマネギを混ぜて味つけしたものを、野菜に詰めて、トマト味のスープで煮た料理で、エジプト、シリアなど、他のアラブ諸国でも食べられています。

パレスチナのドルマの定番は、小ぶりのズッキーニのものと、ブドウの葉でお米ミックスを巻いたものでした。




ドルマはとってもおいしい料理ですが、お米が入っているせいか、三つ四つ食べると、けっこうお腹がいっぱいになってきます。しかし、ここからが踏ん張りどころなのです。

もと同僚のYさんは、日本人にはけっこう厳しいのですが、パレスチナ人には絶対に嫌な思いをさせない、優しい人でした。パレスチナ人の家でご馳走になるときは、男性と女性は別々に食卓を囲みますが、外国人の場合、女性でも男性と一緒の食卓につくこともあります。
男性用に料理が出されると、その席にいない人の分まで全部、大鍋や大皿に盛られていますから、ごちそうは、絶対食べきれないと思えるほど、たくさんあります。

私など、それを見ただけで圧倒されて食欲が落ちてしまいますが、Yさんは勧められると断らずに、いくらでも食べるのです。真似をしてみます。それが礼儀に適っていると、一生懸命食べるのですが、ドルマは七つ八つと食べると、どうがんばっても、もう胃に落ちていかなくなります。
それもそのはず、食事に行き着くまでに、炭酸飲料が出され、コーヒーが出され、紅茶が出され、しかもそれが、朝から二軒目のお家だったりすると、食べはじめる前から、お腹がいっぱいだったりするのです。

Yさんは日本人男性には稀な、まめな人で、休日には駐在事務所の台所で、ドルマやマクルゥバなど、いろいろなアラブ料理をつくってくれました。Yさんが使っているのを見なかったら、これがズッキーニの芯を抜く道具だなんて、知らずにいたことでした。




これは、何でしょう?
ニンニクつぶしにも見えますが、下の突起と、それを受ける丸い部分にヒントがあります。




広げると、こんな感じ。穴の開いた部分は、もしかしたらニンニクつぶしにも使われているのかもしれませんが、右の穴は、オリーブの種取りでした。
オリーブを、穴に縦に入れて、




上から押すと、種がはじき出される仕組みです。種つきのオリーブ漬けが一般的ですが、種を取り除いた穴に、ピメントなどを詰めると、また違ったオリーブ漬かができるというわけでした。

パレスチナの春は、オリーブ畑の足元にアネモネ、ひなげし、菜の花などがいっせいに咲きそろいます。また、アーモンド畑は、桜より大きめの花で、全体が薄桃色に染まり、それはそれは美しいものです。

そして、秋のオリーブの収穫の時期には、一家総出で実を落として、搾り機のところまで運びます。オリーブオイルを絞るいい匂いが、あたり一面に漂って、千年も続く営みが、つかの間の喜びをもたらすのでした。





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