2011年6月1日水曜日

卵顔のお雛さま



まことさんから汚い人形たちを買った次の骨董市、私は残金を払おうと、彼の店を訪ねました。

まことさんの店の展示は、毎回趣向を凝らしています。
そのとき最初に目に入ったのは、ひとかたまりの鮮やかな色の郷土玩具でした。1960年代、70年代くらいの比較的新しいものでしたが、とても保存状態のよいものでした。
その中に、「犬山のでんでん太鼓」がありました。我が家にも同じものがあったのですが、紙でできていることもあり、引越しや日焼けで、褪せて壊れて、とっくに廃棄処分になってしまったものです。

と、お店にまことさんがあらわれたので、見るのをやめて、無事残金を支払いました。




支払いを済ませてあたりを見回すと、一対のお雛さまが目に入りました(クリックすると拡大します)。

以前、まことさんとは、お雛さまをめぐって、すれ違いがあったことがありました。
初節句に贈ろうと、小さな段飾りを持ってきてもらう約束だったのに、まことさんが持ってくるのを忘れ、それに続く二、三ヶ月は、私が骨董市に行けないでいて、まことさんはお雛さまを毎回持ってきていたものの、別の人に売ってしまったというものでした。

「あら、このお雛さま、素敵ねぇ」
まことさんは、かなり安めの値段を言いましたが、
「滅多にないお雛さまだよ、これ。卵形の顔は古いんだ。少なくても幕末は行っているよ。すっごくいいから、持っていてよ」
と言って、さらに三分の二の値段に値下げしました。
「そんなに安くしていいの?」
先回、汚い人形をまとめて売りつけたという負い目が、まだ尾を引いているようでした。
「あの郷土玩具と一緒に出たから、あっちで儲けを出すから」
と、さっき私が見ていた郷土玩具を指さします。

これで、郷土玩具の中から、犬山のでんでん太鼓だけもらう可能性が遠のきました。でも、お雛さまの方をもらおう。あれもこれもと欲張るわけにはいきません。

しかし、またまたお金を全然持ってきていません。お財布に残っているのは200円ほど、近頃は平気でお金を持たないで歩いています。
「今日もお金持っていない」
「いつでもいいから」




まことさんの得意分野は古民具です。「なんでも鑑定団」の故安岡路洋さんがご贔屓で、よく骨董市にも一緒に来ていらっしゃいました。会場での、安岡さんのコレクションの展示会や、小さな講演会も、ときどきありました。
また、江戸時代の古玩のみごとなコレクションを持っていらっしゃる、千葉惣次さん(芝原人形四代目、著書に『江戸からおもちゃがやってきた』彰国社)ともお友だちらしく、千葉さんの展示会+講演会が開かれたこともありました。
というわけで、古民具だけでなく古玩もときどき持っていますが、いつも値段は良心的、誠実です。




お雛さまは、一部紙、一部薄衣に塗料を塗って固めたような、なんとも不思議な衣装をまとっていらっしゃいます。




それにしても、セットとしてついていた白酒の瓶の可笑しさ。
書いた方が簡単そうに見えるのに、わざわざ印刷した「白酒」の文字がついていて、大きさの違う造花の桃の花のようなものが、針金でくくりつけてあります。
古いお雛さまと、いったい、いつからセットを組んでいるのでしょう。

その次の月だったか、お金を持って行ったら、まことさんはまた、すっかり忘れていました。
「あれっ、なんのお金だっけ」
知らん顔をしていればよかった。

「ところで、あの郷土玩具は売れたの?」
「ああ、全部売れたよ」
犬山のでんでん太鼓が、私の手にくることは、なくなりました。


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