2012年7月16日月曜日

セルロイド夫婦


しばらく前に、いつも行く栗の家の骨董市で、箱に綿を敷いて、大切そうにセルロイドの人形を並べている夫婦がいました。夫人が若いころ集めたセルロイドでした。

だんなさんはおとなしい方で、黙ってにこにこ、売れたものを丁寧に包む係りでした。


その店先でいつも出会った、セルロイド好きの知らない女性と、お店の夫人を交えて、セルロイド談義に花を咲かせて、ついつい時間を忘れることがありました。


安い値段で売ってくれるのに、知らない女性も私も、セルロイドは、一度に一つ二つしか買いません。そのくせ、気に入っていたものが次になくなっていると、残念がったりしていました。

夫婦の家には、てっきり膨大なセルロイドコレクションがあるものだとも思っていました。
「売ってしまっていいの?」
「大切にしてくださる方のところに行くんだから、いいんです」


二度会ったか、三度だったか、回を追ってセルロイドの数は減りました。


その夫婦は、市の日に店を出していないときもありました。
セルロイド好きの女性にぱったり出会って、
「今日はあの夫婦いないのかしら?」
とたずねると、
「あまり売るものがないから、毎回は来ないらしい」
とのことでした。

栗の家の骨董市にお店を出しているのは、見たところ業者の方ばかりのようです。
だから、仕入れたものではなく、持っているものだけを売っている人がいたなんて、考えてもみませんでした。
 

結局、夫婦を見かけたのは、二、三度だけだったでしょうか。
セルロイドの他には、瀬戸物なども並べていましたが、これも見ていないけれど量は少しのようでした。
そして、売るものがなくなってしまったのか、とうとう姿を見かけなくなりました。


夫人のセルロイドコレクションは素敵でした。
ヤフーオークションに出したりすれば、たぶん私に売った値段の数倍の値段がついたことでしょう。骨董市は出店料もかかるのに、儲けが少しは出たのかどうか、そして今頃はどうしているのか、ちょっと気になるご夫婦でした。


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