2013年7月9日火曜日

紋織(一)、ラオスのシン

模様綜絖を使って紋織り(もんおり)を織る空引き機(そらびきばた)は、2000年くらい前に中国で考案されました。
紋織りの布は、奈良時代に中国から日本にもたらされ、今も正倉院の御物として残っていますが、織りの技術が伝わり、日本でもつくられるようになったのは、ずっと後の十六世紀も終わりごろのことです。
空引き機は、二人一組で息を合わせて織る、大仕掛けのものでした。
織り機の製作、模様綜絖の製作、模様綜絖の取りつけ、織る技術など、どれをとっても高度な専門技術が必要とされ、広く伝わるものではありませんでしたが、京都西陣に専門集団が生まれて、それが今に続いています。

日本に伝わったのと同じころ、空引き機はシルクロードを伝わってヨーロッパにももたらされました。
十八世紀に蒸気を使った力織機がつくられ、1801年、フランスでパンチカードを使ったジャガード織り機が考案されると、紋織りは熟練した職人でなくてもつくれるようになりました。



それが、やがてイタリアでネクタイ生産として特化し、今日の生活の中でもっとも身近な紋織りとなりました。
 

日本で、紋織を担って来たのは京都西陣で、その代表的なものが帯です。


昔も今も、紋織の帯のほとんどを生産している西陣は、1980年代まで、ジャガードのパンチカードをつくる人、それをとりつける人、その機械を整備する人など多数いて、西陣の一大勢力を形成していました。それが、コンピュータに取って代わられたのは1990年代です。
空引き機から、ジャガードへ、ジャガードからコンピュータへと、大きな波を経験するたびに、脱落する人は脱落し、生き残った人は生き残って、西陣は紋織りをつくり続けてきました。


そんな紋織りは、中国から東南アジアにも伝わりました。
日本やヨーロッパへ伝わった技術は、専門家集団しか携われない高度なものでしたが、ラオスやタイへはいったいいつ、どのように伝わったものなのか、誰もが家庭で、しかも織り機や模様綜絖を自分でつくれて、一人で織れるという方法でした。
そのためその技術が、今日までたくさんの家庭で脈々と受け継がれてきています。
もっとも、タイやラオスの紋織りは複雑な曲線を出したりするものではなく、直線的な模様ですが。

ラオスの紋織りでつくられる布の代表的なものに、パヴィエン(ショール)と並んで、民族衣装の腰巻、シンがあります。
1990年ごろには、まだ(西側諸国に対して)半鎖国中だったラオスでは、長い内戦で綿の栽培などは途絶え、市場で売られている織り糸はレーヨンしかないという状態でした。
したがって、当時人々が身につけていたシンはほとんどレーヨンのものでしたが、下に紹介するシンは、それより少し前につくられた、栽培した綿を手で紡いだ木綿糸を主に、模様糸には絹を使ったものです。

何故レーヨンしかなかったか?
それは、レーヨン生産国が市場を求めたという、レーヨンに比べて木綿糸が高かったという、単純な国際市場原理が原因でした。


シンは、腰巻としてはわりと短めで膝丈くらいで着ることもあります。
それにしても布の織り幅が狭すぎることもあり、紋織りをほどこした布を裾にはいだり、見えない腰回りに別布をはぐことが一般的に行われています。
このシンも、絣と紋織りを組み合わせたメインの布に、腰と、裾に別布を足しています。
布は「わ」に仕立ててあります。


織る時はこのように横方向に織ります。
色で変化を出していますが、このシンは紋織りとは言えないほどの、単純な模様が使われています。


同じく、絣と紋織りの組み合わせで、上下に別布をはいでいます。


上のシンより、紋織りの部分はずっと複雑です。


やはり、同じ手法のシンです。これも上に別布を足していた跡があります。


このシンは絣との組み合わせではなく、紋織りだけの総模様です。
単純な繰り返し模様でも、模様糸を変えることによって、複雑な表情を出すことができます。模様が大きいので、たぶん若い人用です。
 

一枚の布で、裾側だけに紋織りの模様を入れたシンです。


地域によっても、家族によっても、それぞれ独特の模様を持っていました。


これは裏。
裏もなかなかきれいです。


腰部分に工場製の布をはいだシンは、遠目には単純な縞模様に見えます。


でも、近くで見ると、なかなか複雑な模様になっていることがわかります。

1990年初頭には、シン、あるいは普段着のサロンを身に着けた女性しか見ることができなかったラオスでも、あっという間にジーンズなどパンツ姿が普及し、今ではシンを身につけている人の方が少数派になりました。

そのシンの材料も、前述のように自分で紡いだ木綿や絹糸ではなく、市場で買うレーヨンにとって代わられてしまいましたが、生活の中にまだまだ生きていることも確かです。



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