その垂直や水平は、いったいどうやって出してきたのでしょう?
春日権現紀絵巻、鎌倉時代後期 |
かつては、水の表面が水平なのを利用して、土に溝を掘って水を注いだり、敷居の溝に水を注いだりして、水平を計りました。
また、木箱に水を張った水準器(水平器)も使われました。
この写真は実に興味深い。水糸を張っているのが見えますし、大工さんの腰には差し金も見えます。
水準器にはまた、A字形の上端に錘(おもり)をつけたものがありました。
この形の水準器は古代エジプトで発明されたもので、19世紀半ばまで使われました。
アルコールに気泡を入れて密閉したアルコール水準器は、17世紀半ばに発明されましたが、最初は測量用に使われ、19世紀になってから、大工道具として一般に使用されるようになりました。
この水準器がなければ、家は建てられません。
我が家では、かつて、ホームセンターで買った水準器を使っていました。ある日なんだかおかしいと感じて、左右反対に置いてみると、どれも気泡の位置が微妙にずれていました。
「あれぇ」
さっそく、新しいものを買おうとホームセンターに行き、展示してあるものを全部その場で試してみましたが、どれも正確ではありませんでした。家を建てはじめてすぐのころのことです。
なかなか手ごわい道具のようでした。
結局、通販だったか、大工道具専門店で見つけたのかわすれましたが、ドイツ製の水準器を見つけ、狂いもないのでこれでやってきました。
もっとも、水準器の並んだ写真の一番手前のは、比較的最近ホームセンターで買ったものですが、この十年ほどの間に、精度が上がったのか、日本製ですが正確でした。たんに製造会社が違うのかもしれません。
垂直を見るのは、古来もっと簡単でした。重力を利用して、錘のついた糸を垂らしてみればよかったのです。
現代は、水準器にもう一つついている、水平を計るのと直角になっている水準器を使います。
これはちょっと古いイギリスのアルコール水準器です。
気泡の両側に細い線がガイドとしてついているのが見えます。
ちょっと気泡をずらしてみると、よく見えます。
この水準器は、二十世紀の前半につくられたものでしょうか?
木はイギリスにはない、熱帯でしかとれない黒檀か、ある種のマホガニーです。
当時、アフリカの森はすでに荒らされていましたが、まだ今ほどの重機のない時代でしたから、巨木は残っていました。私たちがガーナに滞在していた1960年代半ばにも、直径3メートルもあるような木が、そこここに立っていました。となると、この水準器に使われた木は、象と川を利用して、搬出が容易な、アジアの森の木だった可能性が高いことになります。
大航海時代には、船をつくるのに大量の木が必要で、しかもチークは船の建造に適していたので、インドからビルマ、そしてタイと、熱帯アジアの森林は切られに切られていました。
水準器としてもおもしろいのですが、マホガニーや真鍮を見ていると、ついつい深読みしてしまいます。
さて、でこぼこな地面に最初に水平な点を出すときは、どうするのでしょう?
今は何でもコンピュータの時代ですが、私たちは簡単な昔ながらの肉眼で計る測量機を使っています。測量機を水平に設置しておいて、地面のある点を取ってそこに目盛りのついた測量棒を立ててレベルを出し、同一水平面になるところに水糸を張っていく方法です。
測量機を持っていなくても、透明なホースに水を入れて計ると、同一水平面は簡単に出せます。八郷には、この方法で家を建てた人たちもたくさんいます。
ちょっと前、透明ホースがない時代は、ホースの先にガラス棒を差し込んで使ったようです。さて、ホースがない時代はどうしていたのでしょう?
比較的平らな敷地には溝が掘れましたが、傾斜地では適当に水糸を張ってみて、その水糸の位置を、水を使った水準器で調整する以外、なかったようです。
最初の写真のように木箱に水を張り、水糸も張って、水面から水糸までの高さを差し金で計ればよかったのです。
追伸:
あれっ、食卓の上に、ミニミニ水準器が乗っています。
とても狭いところでも水平や垂直が計れるものですが、久しぶりに見ました。
夫が、私のブログを見て、出してくれたものだろうか?
「どうしたのよ、これ」
「あんたが隠しておいたのを、手袋をさがしていて、見つけたんだよ」
そう、私はときおり、すぐに使いたい道具が見つからないことに腹を立て、自分用になにか隠しておくことがあります。金づちや差し金、ネジ回しなどです。
でも、それで、確保しておいたことをすっかり忘れてしまうようでは、持っていないと同じことでした。
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