2015年1月19日月曜日

ガラスビンで遊ぶ

骨董市でさわださんの店をのぞいたら、待ち構えられていました。
「ビンがあるよ」


目の前につきだされたのは、「二八水」というラベルの残った、未開封の化粧水のビンでした。


裏には、二八水と陽刻も入っています。
「これは、珍しいでしょう?ほらこれも、これもあるよ」


さわださんは、次々と見せます。
どれも、ラベルや中身が残った姿で、洗っていません。
「珍しいわね。洗ってないビンばかりで」
「おれ、もう洗うのが嫌んなっちゃった」
これまで、クリームビンから目薬ビン、染料ビンから軟こうビンまで、たくさんのビンをラッコのように、洗って洗ってきたさわださんです。

「こんなビンは、そのままにしておくのと洗うのとどっちがいいの?」
私たちのやり取りを聞いていた、さわださんのお客さんが聞きます。
「おれは断然洗う派だな」
とさわださん。
「そうねえ、資料的な価値を大切にするなら、情報があるからそのまま取っておくし、ガラスが好きな人は、きれいに洗って、ガラスを楽しむでしょうね」
「おれは、洗っちゃう」
と、ラッコのさわださんは強調します。

「まとめて持って行ってよ」


たいした客でもないのにそう言ってくれるならと、気持ちよく全部もらってきました。
下川原の鳩笛は、
「これ、おまけにもらっていい?」
と、無理やりもらってきたものです。

さあて、どうする?


まず、「サムライインキ」ビンのコルクを外そうとして、たちまち失敗しました。
もともと劣化が激しくて、取るのは無理だったようで、残りをカッターで掘りだそうとしたら、ぼろぼろと崩れてしまいました。
それでもラベルは水に浸して、そうっとはがして、


ビンを洗った後、貼りつけました。
ビンを楽しむのと、情報も残しておくのとの折衷的解決です。


もっとも、サムライインキのビンの底には、「サムライ」と陽刻が入っています。

明治期に、西洋の文化が入って来て、簿記などをつけるため、日本で初めてつくられたインクは、丸善のアテナインキでした。
需要はたちまち増え、大正時代になると、インクのメーカーが乱立しました。オリンピア、月印、バイエル、プリンス、二羽鶴、スワン、向井、サンエス、イーゲー、ロイド、サムライ、岡野、サロン、特殊、ハタノ豆、プラトン、ポプラ、秋田、チャムピオンなどなどだそうです。
そして、サムライインキを製造したのは、神田区錦町のサムライ商会でした。


「WHITE ROSE」ビンのコルクも、半分千切れてしまいました。しかし、もともと長かったので、なんとか使えます。
ラベルは、はがして、中を洗ってから貼りなおしました。
THE FINEST EXTRACTと書いてありますが、「よく抜きとれる」って、何のこと?漂白剤?それとも美白剤?
MADE BY F.H & CO.とありますが、名前からすると、日本の会社ではなさそうです。もしかしてアメリカの会社でしょうか?
ちなみに、WHITE ROSEはネット検索してみたらよくある名前で、資生堂はホワイトローズという香水を出しているし、フランスにもWHITE ROSEという香水がありました。


蓋がなかった陶器の容器は、底の「OEC」のラベルの下に、文字が見えます。
昭和15年から21年ごろまで、ガラスの代用品としてつくられた統制陶器のようなので、水に浸してラベルをはがして見ました。


「やっぱり」
岐阜県土岐市でつくられた統制陶器でした。「岐」の字は読めますが、その下の数字はよく読めません。1103でしょうか。
 

首に、「香入無毒練白粉」という細長いラベルを巻きつけていたビンです。
せっかちで粗忽な私は、ラベルをきれいにはがしたり、蓋をゆっくり開けたり、コルクを抜き取ったりするのに、まったく不向きですが、それでも何とか処理しました。しかし、この開かない蓋にはまったくお手上げでした。
熱湯に浸したり、逆さにしてゴム槌で蓋の縁を叩いたり、石鹸を縁に塗ってみたりしましたが、なんとしても開けることができませんでした。
次回の骨董市のとき、さわださんに試してもらう以外ありません。


東京馬喰町の花王石鹸本舗の「二八水」ビンと、TOKYO SOYENDOの「ワニラ」ビンは、当分このままにしておくことにしました。
ヴァニラのビンは、まるで乳白色のように見えますが、粉がついているだけで、透明なビンです。他の日本語ラベルがすべて右から書いてあるのに、一つだけ左から書いてあります。だからと言って、あまり戦後のビンには見えません。
「ワニラ」というのが、そもそも愉快、未開封でヴァニラが丸々残っています。


さて、どうしようかと悩むのは「BANDOLINE」ビンです。
明らかにフランスの古い香水ビン、これも未開封です。


ビンを開けて、きれいに洗って、資料的価値が落ちたとしても、陽刻が残ります。


蓋も素敵です。
このままにしておくか、きれいに洗ってビンだけを楽しむか。悩んでしまいます。



東京の板橋百花堂の「化粧料、チエリー水」のビンは、長い間水に浸しておいても、なかなかはがれませんでした。
元々、ラベルはカビていたし、もう破いちゃおうかと短気を起こしながらふと気がつきました。


ビンの中はすっかりきれいになっているんだから、はがれないものを無理してはがす必要は、もう全然なかったのです。
「なあんだ、ばかみたい」


というわけで、一応ビンと遊ぶのは終わりました。

でも並べてみると、さわださんじゃないけれど、ラベルを全部はがしてビンだけにしたい気持ちが、むらむらとわき上がってきます。
やっぱり、私もガラスだけの方が好きです。




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