2016年7月2日土曜日

透かしのある籠


フランスの籠です。

比較的堅めの経材(たてざい)を交差させ、それに緯材(よこざい)をぐるぐる巻いて底をつくる籠の編み方は、日本の籠編みの技法の中にもありますが、その編み方が生まれる条件として、緯材として使うしなやかな材料が必要で、世界的に見ると、そう一般的な編み方ではありません。
 

しなやかな材料として、日本には竹がありますが、ヨーロッパには、柳のひこばえがあります。
その柳で、ヨーロッパ各地では昔から、「経と緯(たてとよこ)」で編む籠がつくられてきて、その技法を英語でウィッカー(Wieker)と呼んでいます。
ウィッカーには、緯材は一本だけ使い、なくなったらそこで新しい材を足して編み進む編み方と、底から胴へと立ち上げるときに、複数の緯材を足して編む編み方があり、前者を「イギリス式ランディング(素編み)」、後者を「フランス式ランディング」と言っています。

このフランスの籠は、緯材を足すフランス式ランディングで編まれています。
 

ちなみに、日本のウィッカーの籠の、表(右)と裏(左)です。
経材を底の直径が大きくなってから足していますが、それを装飾的に足しています。
日本の籠ですから、英語の分類に従う必要はありませんが、あえて分類するなら、イギリス式ランディングで、緯材は一本だけで編み進んでいます。



余談ですが、日本の籠には、ウィッカーだけでなく、いろいろな籠底の編み方があります。
ウィッカーで編むときは、緯材としてとりわけ細いひごが必要になるので、網代、カゴメ、平織、その組み合わせなどで編む方が、一般的と言えるかもしれません。


さて、フランスの籠とよく似ている、ラトビアの籠を持っています。

 
縁はほぼ同じ編み方ですが、ラトビアの籠は、縁の透かし編みのすぐ下に、緯(よこ)に走る三つ編みの帯が見えます。
そして、左のフランスの籠は、二枚目の写真の底を見るとわかりますが、底と胴の境目に三つ編みの帯があります。
フランスの籠は、底近くで三つ編みにするため、縁を形づくった三本どりの柳を、素編みの外を通って下まで降ろしているので、それがひとつの装飾になっています。


フランスの籠の内側です。
底から立ち上がるところで緯材を複数足していますが、内側からは足した緯材の端がまったく見えません。
写真上部の、丸材ではなく割材を使っている部分が底です。


それに対して、ラトビアの籠の底と立ち上がりの境目には、立ち上がるときに足した緯材の端がたくさん見えています。
やはり写真の上部が底です。


フランスの籠を外側の上から覗き込むようにして見ると、緯材の端が並んでいるのが見えます。手前の細い切りそろえられた端は、縁から下げてきた、緯材+縁材を始末したもので、その奥の太いのが、胴部分を編むために足した緯材の端です。
 

また、ラトビアの籠を下から見上げるようにすると、三つ編みの下に、緯材+縁材を始末した端が見えています。
どちらも、三つ編みはただの飾りではなく、籠をきれいに仕上げるために必要なものだったのです。

ヨーロッパには住んだことがないので、ものや人、技術の交流や伝播がどのように行われてきたのか、あまり想像がつきません。
ただ、昨年デンマークに行ったとき垣間見たのは、ヴェトナム人、イラク人という比較的新しい移民だけでなく、ユダヤ人、ロマ人、イヌイット人、ロシア人などが、デンマーク人と混じって暮らしているということでした。
ヨーロッパ大陸では人でさえそれほど混じり合っているのですから、人の交流以上に、ものや技術は、古くから影響し合っていたと思われます。

フランスとラトビアは遠く離れていますが、少なくてもこの二つの籠は、フランス式ランディングで編まれていること、縁の透かし編みと端の始末のための三つ編みがそっくりなことなどから、別な場所で、別々に発生した技術ではないと思われます。

フランスの籠は古いもので、ラトビアの籠は現在つくられている新しいものです。


縁の透かし編みは、フランスの籠もラトビアの籠も三本どりになっていますが、どちらも一本で編み上げた経材に、素編みの上部で左右から一本ずつ、縁材として柳を足してあります。
 

持ち手は、太い材を芯にして、それに細い材を絡めるようにつくってあります。
左がフランスの籠、右がラトビアの籠です。


かつて、農閑期や漁閑期に、自分たちで籠をつくっていたヨーロッパの人々。
今、そんな生活はほとんどの場所で消えてしまいましたが、その技術がいろいろな地域に伝播して、次の世代へと伝えられているのは、素敵なことだと思います。








2 件のコメント:

  1.  すべてがアメリカナイヅされた様式を追っているような
    気がするのですが、(独断と偏見で)
    日本で今作ると工芸品とかになってしまうのかなー
    もっと生活に密着した物だったのにねー
     漂着物に針金製のかごがあります。
    径が22センチ物を入れれば深さ20センチ
    物を入れなければぺたんこで優れ物でさびていませんよ。

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  2. 昭ちゃん
    今だと、労働時間をお金にしか換算しようがないというか、そんな世の中になっているので、籠の欲しい人も籠師さんも両方辛いですよね。
    必要だから自分でつくるということに勝ることはないと思います。
    ものを入れない時はぺったんこになる針金細工ありますねぇ。魚籠なんかもそんな感じのがありました。そんな籠を編むとき、どう編んだら平面になるか、心ときめいたことでしょう。
    この籠たちも、なんとか縁を華やかにしたいと考えた気持ちが伝わってきます。

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