2017年4月25日火曜日

サルサの思い出

その昔、東京池袋のはずれに、「サルサ」という小さなお店がありました。
いろいろな国の、民族布を惜しげもなく使って服を仕立て、売っている、ワンダーランドのようなお店でした。
「私、どんな人にも似合う服を見つけ出す自信があるの」
当時、40代だったでしょうか、素敵で気さくな女性店主は、そう言っていました。
実際、
「あなたには、これがいいわ」
と選び出してくれる服は、どれも魅力的でした。
彼女のつくる服は、たっぷりしていて着やすいのに、袖口や足元がきゅっと締まっていて、かっこよく見せるような服でした。

小さなお店から、にぎわいはじめたおしゃれな町自由が丘に、売り場面積の大きくなった店を出して、やっとこれからという矢先に、彼女は病に倒れ、あっけなく帰らぬ人となりました。

さて先日、夫の兄弟の家族たちと集まりがありました。
場所が自由が丘だったので、私はサルサの店主を思い出し、久しぶりに彼女のつくったパンツをはいて出かけました。


インドネシアのスンバ島のイカット(絣織) のパンツです。
布を小さく切ってしまいたくなかったのか、たっぷり使って、仕立ててあります。腰のポケットもギャザーを取って立体的だし、腰には共布の紐を結ぶようになっていて、腰回りがもこもこするので、圧迫骨折で体形が変わってしまった私にはちょっと似合わないのですが、上にたっぷりしたブラウスを着て、腰回りを隠して着ました。


藍だけで染めた経絣(たてがすり)の布で、スンバ島の伝統行事である勇壮な騎馬祭りの「パソラ」や、


天上界の象徴とされ、繁栄のモチーフでもある鶏などが描かれています。
イカットとしては、そう手の込んだものでもありませんが、私ならもったいなくて、はさみを入れられなかったことでしょう。
自由が丘は相変わらず変わり続けていて、さらにおしゃれな町になっていました。そんな町を歩きながら、サルサがなくなってもう20年以上経つのだと、改めて思ったことでした。

スンバ島の伝統的な家。とがったところに、神が宿るとされています








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