ひと月ほど前に、たくさんのふしぎの2018年9月号、『すてきなタータンチェック』(奥田実紀文、穂積和夫絵、福音館書店)を買うつもりで本のネットショップをチェックしていて、横にちらっと出ていた『ナミブ砂漠、世界で一番美しい砂漠』(野村哲也文、写真、1916年)の方を買ってしまったことがありました。
『すてきなタータンチェック』は、そのときは、「まぁいいや」と思ったのです。
ところがhiyocoさんのブログで、『すてきなタータンチェック』を取り上げていて、面白そうでした。やはり買おうかと調べると、次の月の号が出る時期で、9月号の発売を差し止めている期間というのがありました。
「あっ、買えない!なんで?」
と慌ててしまいましたが、そんな期間も過ぎて、また発売されたので買いました。
たくさんのふしぎは、表向きは子どもの本ですが、とても詳しい説明で、何歳くらいからわかるかしら?大人の私は、とても勉強になりました。
タータンチェック(タータン)は綾織りです。
綾織りにすると目が詰まるので、もともと寒いところで着る布として織られたタータンが綾織りなのは、当たり前と言えば当たり前です。
風よけ、雨よけの、トレンチコートやレインコートにするギャバジン(これもイギリス発祥。有名なメーカーはバーバリー)も綾織りで織られています。
それに対して、平織りの布は、目を詰めては織りにくく、風を通すので、暑い季節や、暑いところで着るのに適しています。
もっとも、例外もあります。平織りでもごくごく細い糸で織れば目の詰んだ布ができるし、カンボジアの綾織りの絹のように、しゃきっと張りがあって、身体にまとわりつかないので、熱帯でも快適に着られて、寒いところでは風を通さないので暖かく感じる布もあります。
綾織りにもいろいろあり、表と裏の糸の出方(飛ばし方)を変えると、長く出ている方の色が目立つので、表裏が違った印象になります。例えばジーンズは、経糸を藍で緯糸を白で綾織りにしていて、糸の出(長さ)を表と裏で変えているので、表は青く、裏は白く見えます。
ところが、タータンは表裏同じ目(2目綾織り)で織っています。そのため、裏表とも同じ印象に見えます。
また、タータンは、経糸と緯糸の並べ方(縞のつくり方)を、必ず同じ色で同じ配列にしてあるそうです。それは知りませんでした。
日本でも、タータンはお馴染みです。今もあるかどうか、横浜の元町にはタータンチェックの専門店がありました。
ときおり、タータンのブームも訪れました。タータンのひざ掛けをあちこちで見かけた時があったし、タータンをスカートやスカーフに取り入れたトラッド・スタイルが流行したこともありました。
高校生の制服のスカートは、今もタータンがたくさん見られます。
と、ここまで書いて、私はタータンとは、全く無縁に過ごしてきたことに気づきました。
タータンにはなんとなく、お嬢さまの雰囲気がありました。実際高価なものだったかどうか、医者の子どもである従妹たちはよくタータンを着ていました。
私の場合、長じても、タータンを身に着けたことは、マフラーでさえありません。タータンとのつき合い方がわからず過ごしてきたのでしょう。
これら、タイの浴用布パッカマーのチェックは、経糸緯糸を同じように並べて織っているので、もしこれが綾織りだったらタータンと呼ぶのにふさわしいのですが、平織りです。
そして、こちらの布(パッカマー)は、経糸と緯糸の色糸の配列が違い、対角線で折ってみると模様が重ならないので、タータンではないうえ、やはり平織りです。
平織りというのは、経糸と緯糸が一本おきにくぐるように織る織り方です。
手持ちの格子の布をチェックしてみましたが、どれも平織りでした。
スコットランドの高地の織りものであるタータンは、キルトと切っても切れない関係にあります。
そのことは、もちろん知っていましたが、この本で、キルトが比較的新しいものだと知りました。それまで、一枚の布を使うプレードだったものが、1720年代に上下が切り離されてキルトとなったのです。
言葉は知りませんでしたが、プレードは物語の中では大いになじみがありました。
ローズマリ・サトクリフの物語に出てくる男性の多くがプレードを身につけています。『ともしびをかかげて』のアクイラは、凍えるような寒い部屋から、少しでも暖をとろうと暖炉の前にプレードを持ってきて、ベルトを締め、襟もとで青銅と銀でできたブローチを止めて、進退を賭けて王の前で話をするために出掛けていきます。
ところで、ル・グゥインの三部作『パワー』に出てくるガヴィアは、高地人のチャムリからチュニックとキルトをもらい、キルトのはき方がわからず肩にかけて笑われています。
もっとも、サトクリフのアクイラは、ブリテンからローマが撤退した時代を舞台にしていますが、ル・グゥインの物語は架空の場所、架空の時代なので、どんな服装でも構わないのです。
女たちが糸を紡ぎ、堅機(たてばた)で布を織った時代から、タータンチェックは今日まで消えることなく受け継がれてきました。
ギンガムチェックやマドラスチェック(どちらも平織り)には親しんできた私ですが、これからも、フォーマルの感じがするタータンとつき合うことは、まずなさそうです。
本はとても面白かったのですが。