中国の手仕事は、年々すごいスピードで失われているという話をよく目にしたり、耳にしたりします。
都市には高層ビルが立ち並び、グローバリズムの波がアメーバーのように広がり、農村にも観光客が押し寄せたりして、伝統的な生活が飲み込まれてしまっているようです。そんな中国の、どちらかというと貧しくて見るものもないと言われている、少数民族が多く住む貴州省でつくられた小さな籠、こおろぎ入れです。
底は補強のために、二重になっています。
底に回した補強用の太い竹は、上部では一体化して、細いひごに組み込まれています。
平たいひごの先が尖らせてあるので、後から差し込んだことも考えられますが、まさか!
つくり方を考えただけで、頭がくらくらします。
蓋は、玉に編んだものを差し込んでいますが、ぴたっと嵌ります。
この玉は、籠玉の小さい玉のつくり方と原理は同じか、吉田さんは、籠玉づくりは大きい玉より小さい玉の方がつくるのが手間だと、たしかおっしゃっていました。
こおろぎ入れの籠を見て、記憶の底から、闘争用こおろぎの関連道具を集めていた人がいたことを思い出し、古い新聞の切り抜き帳をめくってみました。
ありました。
2004年5月1日の朝日新聞の日曜版の「こだわり会館」という連載の中の記事でした。
記事によると、翻訳家瀬川千秋さんは、家庭も顧みずこおろぎの闘いに熱中する中国の男たちを10年以上にわたって観察しているうちに関心を持ち、そのこだわりを書いた「闘蟋(とうしつ)」という本を出版されました。また、ご自身もこおろぎに関連する道具を集めていらっしゃいます。
闘蟋(こおろぎの闘い)に臨む人は、8月の末頃、こおろぎを捕まえたり買ったりします。
9月に入ると練習試合を繰り返し、強いこおろぎを選んで、10月から11月にかけての「虫王」を決定する、チャンピオン大会に出場させます。
こおろぎたちをいかに強い戦士に育てるか、男たちは食事法、入浴法、便秘や冷え性の治療法、減量やトレーニングなどに気を配り、闘盆(リング)上での試合に備えます。
試合に臨むこおろぎは、慎重な計量の上(目方が近いものどうしが闘う)、ネズミの髭でつくった筆で触角や脚をなでられ、興奮し、戦意を掻き立てられてリングに上がります。そのネズミの髭の筆は、ネズミを捕まえ、生きているものから抜いた髭を使うそうです。
リング上で、こおろぎはつかみ合い、投げ飛ばし、噛みつき合います。そして、勝者は翅を打ち振るわせながらリングを周り、敗者は背を向けて逃げるのだそうです。
闘蟋は、唐の時代から、1200年も行われてきました。
勝敗は数分でつきますが、闘蟋を愛する男たちはその瞬間までの数か月を楽しみます。こおろぎの家、移動容器、体重計、ベッドなどなど、数々の工芸品がつくり出され、こおろぎの生態研究が進み、こおろぎ文学も生まれるなど、独特のこおろぎ文化をつくりだしてきました。
瀬川さんは、2002年には、こおろぎ好きが高じて「日本蟋蟀協会」を結成し、15名ほどの会員たちと闘蟋をしたり、情報交換したりしているそうです。
会員の夢は日中対抗戦だそうですが、なにせ中国には、1200年もの歴史があり、日本は21世紀に入ってからの歴史ですから、いったい歯がたつものでしょうか。
コオロギ入れって最初は、貴重なタンパク質?として食べるためにかと思いました(^^;
返信削除なんと、戦わせたんですね。その、心理的欲求とは何でしょう。自分には全く共感できません…興味深いです。
Akemi Fujimaさん
返信削除闘牛(牛と牛の)、闘犬などと同じ考え方、もしかしたら人間のボクシングや相撲にもつながるかもしれませんが、手塩にかけた「かわいいやつ」がどのくらい力を発揮するかという達成感ではないですか?
私も、こおろぎが闘うことに興味は持てませんが、大相撲は見るのが好きです(笑)。
古今東西、闘うのが好きな人がいっぱいいたのですね。カエル相撲とかもあった?
クモを戦わせるのは知っていますがコオロギとは!縄張り意識が高い生き物だということを人間が知っていたんですね。
返信削除hiyocoさん
返信削除そうか、闘うというのは縄張り意識があるからなんですね。蜘蛛は確かに縄張り意識があるでしょう。
こおろぎはしょっちゅう見かけますが、「わっ、見つかった」という感じですぐこそこそ逃げてしまうので、どんな性格なのか知りませんでした。
私だったら、こおろぎではなくて、カマキリで遊びます(笑)。でもカマキリは固まって動かないかもしれません。