イトイラズ

デッドストックのイトイラズです。
「糸要らず」、その名の通り、糸を使うことなく布と布を貼り合わせる、糊（接着剤）です。
蓋がくっついて開かないということでしたが、とてもかわいいビンなので買ってみました。

まず、蓋を開けることを考えました。
以前、ガラスの本体にガラスの蓋のビンを開けられなくて、おもちゃ骨董のさわださんに開けてもらったことがありましたが、ガラスと金属なら少し簡単そうです。
箱に書いてある効能には、「水洗いは勿論熱湯にて何度洗濯するも絶對にはなれる事なし」と書いてありますが、熱湯と言っても、洗濯に手も入れられないようなお湯は想定していないだろうから、本当の熱湯で何とかなるかもしれません。
下準備として、目打ちを蓋の下に突き刺し、蓋を押し広げるようにしてできるだけ空気が通れる隙間をつくろうとしましたが、もちろん固くくっついているので、隙間ができたかどうかはわかりませんでした。

ビンをカップに逆さに立てて、ビンの肩まで熱湯を注いでみました。耳を近づけると、かすかに、空気が通る音がしました。しめしめ。目打ちが効いていたのです。
しばらくお湯に浸したあとねじってみましたが、まだビクともしません。また目打ちで少しつついて、もう一度逆さに立てて熱湯を注ぎました。今度も、かすかに音がします。
今度はお湯が冷えないうちに、金属の蓋が膨張しているうちに取り出して、ねじってみました。

わぁ、蓋が動きました。そして取れました。

ネットでイトイラズを探してみると、イトイラズのビンはビンコレクターの人たちのブログに、いくつか出てきました。
ただ、浜や川で拾ったもの以外は蓋がくっついているようで、薬品（有機溶剤アセトン）を使って開けることに成功した人もいますが、そのままにしている人もいました。
イトイラズが特許を取ったのは、昭和１０年（１９３５年）、その当時出回っていたのでしょう。

蓋の内側にこびりついていた糊は目打ちで取り出しました。

さて、ビンに残っている糊をどうやって取り出しましょう？
とりあえず、ビンの中に熱湯を注ぎました。

ビンの肩から口のあたりにも薄く糊が残っていますが、底には大きな固まりがあります。
熱湯を注いでしばらくしてからつつくと、その糊の塊がビンから外れました。

目打ちを突き刺すと、弾力があって塊のまま動きますが、持ち上げようとすると目打ちを刺した部分がちぎれるだけで、なかなか出てきません。

四苦八苦。

ピンセットでは弱すぎるし、ペンチはビンの口が細いので十分開いてからつかむことができず、ちょっとだけつかんでも、ちぎれてしまいます。
やっぱり最後は目打ちでした。目打ちを突き刺して、力いっぱい持ち上げました。

やっと糊の塊が、ビンの口から現れたところです。

「取れたぁ！」
底に残っていた糊は一気に取れましたが、ビンの肩に薄い膜になってついている糊には、目打ちは届きません。
再び熱湯を入れてふやかしました。

曲がっているところをほじくるには、先が直角に曲がっている六角レンチが最適です。
最後まで残っていた部分があんまり剝がれないので、ガラスの傷かとも思いはじめたころ、やっと取れました。

ビンの中に残っていた糊がなくなり、光が通るようになりました。

エンボスがきれいに浮かび上がります。
肩の部分にはぐるっと「専賣特許第一一二四五二号」と書いてあり、その下に大きく「松惠製薬所」とあります。
糊なのに、製薬所でつくっていたのです。

反対側には、イトイラズと書いてあります。
そしてその下、ビンのお尻の部分には、小さな三角の列が二段、ぐるっと回っています。

眺めて楽しむだけでなく、ビンをきれいにすることも楽しんだイトイラズでした。

ちなみに、イトイラズの用途は、
「靴下、メリヤス類、シャツ、足袋、小倉地、毛織物地、洋服、トンビ、オーバ、木綿、絹地、人絹、エプロン、フロシキなどのカギザキ、破札、穴アキの繕い、其他革製品、雨具、靴、合羽、防水布、ホースの継ぎ、手工品、袋物等の修繕、及び、制作、用途無限なり」
とあります。ただの糊ですから、そんなに信頼してもいいのかどうか、ちょっと不安が残ります。

小倉（こくら）地は久しぶりに聞いた名前でした。
どんな布だったか忘れていたので調べると、経糸（たていと）１本に対して緯糸（よこいと）を２、３本どりにして（つまり緯糸が太いということ）、平織りか綾織りにした、目の詰んだ布のことを「小倉」と言ったようでした。福岡県小倉で開発された布で、袴、帯、学生服などに使われましたが、今では少なくなっているそうです。
トンビはどこにあるかなぁ。大叔父のトンビをもらってしまい込んであるはずです。

そして、破札って、もしかしたら破れた紙幣を繕うのでしょうか？

追記：

ちょっと出かけます。
週末まで一週間ほどブログを休みます。