2020年1月19日日曜日

遠い景色

古い友人M.Sさんが来たとき、彼のお母さんの話になりました。
M一家は福島第二原発から30キロくらいのところの村に住んでいましたが、2011年の原発事故を受けて家族で三重県に移住、お母さんも一緒に移住しました。


お母さんのことで思い出す、一つの光景があります。
1990年代のはじめごろ、私は田植え、稲刈りなど、農繁期にはM.Sさんの手伝いに行っていました。M家はお父さんの代から有機農家でしたが、M.Sさんは田んぼを耕さない不耕起栽培を取り入れていたので、とくに田植えは手でしかできない、稲刈りも手刈りだったので、人手が必要でした。
あるとき、田んぼで作業していると、脇の道を高級車に乗って通り過ぎた人がいました。
そのときM.Sさんのお母さんが、
「あの人は原発に行っているのよ」
と教えてくれました。
原発には、熟練者でなくてもできる掃除などの仕事があります。
最初は原発の近くの人が働きに行っていましたが、行くたびに浴びた放射線量を計算して、浴びた放射線量が基準値に達した人は、それ以上は雇ってもらえません。だんだん人が足りなくなり、当時は原発から30キロも離れた場所からも、農閑期には働きに行く人が出るようになっていたのでした。
そのあたりでははじめ、働きに行くのは、放射能を浴びると子どもができないと噂されていたので、ある程度の年の人だけだったそうですが、だんだん大胆になり、若い人も行くようになりました。なにせ、3時間働いて3万円もらえたので、そんな割のいい仕事はそうなかったのです。
作業中に、作業場の放射能値が高くなったらブザーが鳴り響きます。すると作業をしていた人たちはすべてを投げ出し、決められたところまで全速力で逃げ帰り、防護服だけでなくすべてをそこに脱ぎ捨てて、さらにそこを離れなくてはなりませんでした。


原発の現場で働いている人の話を聞いたのは初めてだったのでとても印象的で、M.Sさんのお母さんを思い出すとき、必ず原発の話とセットで思い出すようになっていました。
そんな話をM.Sさんにすると、
「あぁ、Kにいちゃんね。あれから3年ぐらいして白血病で死んだよ」
「えぇぇ、いくつだったの?」
「51かな。たぶん、長く働きたいから、浴びた放射線量とかごまかして申告していのかもしれないね」
「そうなんだ。補償金なんかは貰ってないんでしょう?」
「もちろんだよ、申請もしてないよ」
「じゃぁ、そんな人がいっぱいいたのでしょうね」
「いっぱいいただろうなぁ。下請けの下請けだから、記録も消されてしまっているしね」

1993年は冷害の年でした。
夏の気温が上がらず、M.Sさんの稲刈りに行く道すがら、どの田んぼも稲は穂を垂れず立ったまま、それを刈り払い機で刈り取っている、悲しい光景もあちこちで見られました。
そんな中、M家の稲はしっかり実っていました。確か収穫量は連年より低めでしたが、大した違いはありませんでした。
その時、近所の人が来て、農薬も化学肥料も使わないとお米が強く育って実ることはわかったけれど、自分にはこんなことができないなぁ、と言っていたのが印象的でした。
その年はタイ米を輸入してたくさん捨てた年でもありました。

M.Sさんの家族は移住しましたが、今でもほとんどの方はその村に残っていらっしゃるそうです。






8 件のコメント:

  1. どこも引き取り手のない汚染水や廃棄物やメルトダウンだった災害初期すべてはプレスコードで解りません
    満杯になれば薄めて流すかな。

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  2. 昭ちゃん
    スウェーデンに住んでいる人が、「原発はあるけれど、情報はしっかりしているので日本にいるより安心だ」と言っていたのを聞いたことがあるのですが、ほんと日本では信じられる情報がどれなのかまったくわからないのでとっても不安です。
    「本当のことを言うと不安が広がるから」と言うのが隠す理由のようですが、こう隠されると、真実までが嘘に見えてきます。放射能を浴びる仕事をしている人の名簿も全体が把握できるようなものがあればいいのだけれど、最初から知られたくないと思っているので、下請けの下請けをつくってそこだけで管理、最終的にはその名簿はどうなっているのでしょう?
    昨日も、「地震は予知できない」という話をラジオで聴きましたが、その昔、御用学者が「地震予知」のために莫大な研究費を貰い、歴代の学者がそれに倣い、いまさら地震研究者たちは予知できないとは言えないのだそうです。頭に来ますが、こんなもんだとあきらめていていいんでしょうか?

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  3. 姐さんノストラダムスや関東大震災69年周期説といろいろありました。
    憲法改正沖縄問題の先送り・オリンピック狂騒曲もう私には
    関係ないけれど過去の繰りかえしで方向性は解るつもりです。
    恵方巻きでもたべるか。笑い

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  4. 昭ちゃん
    恵方巻はどうして一日だけなのでしょう?
    コンビニなど各社に先日、つくりすぎて捨てないよう、お達しが出たそうです。
    せめて食べる期間を一週間にするとか、余った恵方巻はお寺で撒くとか、もう少し考えたらよさそうなものですね。

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  5. 実家近くの呑み屋さんの友達に、福島の廃炉作業にエンジニアとしてかかわってる方がいて、
    今も人海戦術だと言っていました。
    防護服も煩わしいですが、防護マスクもとても息苦しいものらしく、
    30分で交代してもらうスケジュールを組んでいるとの話を聞いたとき、
    耳を疑ってしまいました。

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  6. akemifujimaさん
    基準値を上回る被ばくで死んでいった人がどれくらいいるのか、おそらく信じられないような数に上るのかもしれません。
    日常生活で、あまり知りたくないことはたくさんありますが、それでもなおきちんとした報道がなされる世の中になって欲しいと思います。

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    1. 本当にそう思います。特に裏方の世界には闇が沢山あるわけで、知らないことばかりです。
      情報化社会になって透明度が増すと言われてましたが、その一面もありつつの、特定の都合の悪い話は益々隠しやすくなったのでしょうか…

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  7. akemifujimaさん
    報じられないことはまったく報じられなくて、野次馬的関心が寄せられそうなことはこれでもかと深掘りされる、「売るための報道」、「利益を生む報道」はやめて欲しいですが、世の中そんなものです。
    一人一人が賢くなる以外道はないのですが、それがなかなか難しいところですね。

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