2020年6月10日水曜日

『武士の娘』を補完する書


『武士の娘』(杉本鉞子(えつこ)著、大岩美代訳、ちくま書房、1994年《もとは1967年に筑摩叢書97として、刊行された》)という本があります。
新潟県長岡の、元家老の家に明治6年に生まれたエツコが、厳しくも愛情深く育てられた生活を、祖母や姥のしてくれる昔語りをまじえたりしながら綴ったものです。
エツコは13歳になると、家族に婚約を通告されます(当時は結婚は親が決めるものであった)が、相手は、アメリカ在住の日本人男性でした。その男性は、事情があって家を出たエツコの兄が、他人の口車に乗せられてアメリカにわたったもののだまされていたと知り、一文無しになって途方に暮れていたときに親切にしてくれた青年、いわば兄の命の恩人でした。
兄に連れられて英語を学ぶために上京したエツコは、英語教師たちに文化の違いとは何かを考えされられる日々を過ごし、のちに渡米します。そして、2人の娘が生まれて、幸せに暮らしていましたが、母に会おうと一時帰国を決心し、娘2人を連れて出帆して間もなく、アメリカに残した夫が病気で亡くなってしまったことを知ります。
帰国後、東京で暮らしはじめたエツコ。2人の娘は日本語が話せるようになり、長岡から呼び寄せた母を看取りますが、母の死後、2人の娘の教育のため、再度アメリカに渡るところでこの物語は終わっています。
原作『A DAUGHTER of the SAMURAI』は、1925年ニューヨークで出版され、反響を呼び、7か国語に翻訳もされています。

『武士の娘』にはさらっとしか書いてありませんが、エツコの父が幽閉されて、切腹直前で不問にされたこと、母が家に火をつけて家族を連れて逃げ、野宿までして生き延びたことなど、その背景となった戊辰戦争のことなどをもっと知りたいと、『鉞子 世界を魅了した「武士の娘」の生涯』(内田義雄著、講談社、2013年)と、『武士の娘 日本の架け橋となった鉞子とフローレンス』(内田義雄著、講談社+α文庫、2015年)をネットで買いました。


さて、この2冊の本、著者が同じなのは知っていましたが、出版社が同じとは気づかなかった、本の題名が違うのに、まったく同じ本でした。
もちろん、古書で買っているので、値段は「損をした」と騒ぎたてるほどのものではありませんが、単行本を文庫にするとき、内容をまったく変えないで題名だけ変えるというのはいかがなものか、文庫本の刊末にはそのことが記してありますが、ずるいと思いました。

それはさておき、内田義雄の本を読むと、非戦の立場に殉じた父の稲垣平助の心を受け継いだエツコ、文化の力を信じたエツコ、アメリカで出会い、生涯の友となったフローレンス・ウイルソンの存在の大きさなどがはっきりとわかり、興味津々でした。







9 件のコメント:

  1. 読みたい本が増えました。

    只、ひねくれ者の私にはタイトル「武士の娘」がひっかかりました。原作はニュ-ヨークで出版されたとの事ですが、新渡戸稲造の「武士道」をはじめとして、武士やサムライに対する海外からの強い興味を意識してのタイトルかと。反響を呼んだとの事ですので、大いに効果有ったと推察します。

    そんなひねくれ心は置いといて、エツコさんの人生を辿りたいと思います。

    返信削除
  2.  春姐さん本に関連した話で、
    最盛期には北九州には行きつけの古書店が6軒あり良く仕事帰りに。
     店主は昔風の商人でいろいろ便宜を図ってくれる情報源で
    購入するとソロバンをはじき「目一杯お引きして」っとソロバンを見せました。
     古書店独特の匂いも好きです。

    返信削除
  3. reiさん
    そうそう、日本語で武士の娘はともかく、英語のサムライの娘は引っかかってしまいますね。実際そうだったからか、その方がわかりやすかろうとの思惑があったのか知りませんが、鉞子自身が、初版本の、西洋人の見た日本人感満載のゲイシャのような表紙の装丁に、とてもがっかりして、ショックを受けたようでした。文化の豊かさを書いたはずが、理解されていないと落ち込んだに違いありませんが、他の国で刊行された表紙も似たり寄ったりでした。
    当時の、武士ではなく庶民の生活の方に関心がある私でさえ、全武士が一夜にして生きる道を失ってしまったことはどんなことだったか、おもしろく読みました。また、女性が意見を持ってはいけないとされた国から女性も意見を持っている国に行き、しかも、そうは見えているけれど実は日本人女性の方が自由があるぞと観察するところなど、とても面白かったです。

    返信削除
  4. 昭ちゃん
    良くも悪くも、すっかり古書はネットでの時代になりました。
    神保町の古本屋街を足を棒にして歩き回り、隅から隅まで見まわしたものでしたが、今では私も、アマゾンをはじめとして、2、3社のネット古書店にお世話になっています。
    偶然出会う楽しさはありませんが、欲しい本が決まっているときは、全国の古書店から手に入るので別の楽しさ(楽さ)があります。1円になっている本なんて、何冊も買う楽しみもありますしね(笑)。

    返信削除
  5. そういう時代なのですね、
    上京すると真っ先に行く処で戦前が残っています。
    地下鉄で外にでれば靖国神社の反対方向なので迷いません。
    裏通りには懐かしい「神田日活」も。

    返信削除
  6. 昭ちゃん
    東京も変わったけれど、北九州も変わったでしょう。
    千年後にはどうなっているのでしょうね。誰も知らないけれど、確実にそちらに向かっているのが、面白いです。
    タワーマンションはどれも廃墟になっているかもしれません(笑)。

    返信削除
  7. 昔は上京するたびにさすが東京っと驚いていました。
    ハイヤーの上部についている標識・自動改札・東急ハンズ・新宿の三角ビルと地下街など
    もう驚かないですね、  アッ!人口の過密度がありました。

    返信削除
  8. reiさん
    『武士の娘』の表紙の件、写真はちらっと見て、内田義雄の本は半分ほどしか読んでなくて、勘違いしていました。
    エツコががっかりしたのは、稚児髷にした女の子が志那服を着ていたことだそうでした。それほどの知識しかないかとがっかりしたようでしたが、それは責められませんね。
    当時とは情報量が全く違う現代でも、私たちの外国理解は似たり寄ったりですから。

    返信削除
  9. 昭ちゃん
    今はどこも同じバイ!

    返信削除