『国芳イズムー歌川国芳とその系脈』(悳俊彦(いさおとしひこ)コレクション、練馬区立美術館企画、青幻社、2016年)は昨年、ネットの古書店の「日本の古本屋」がセールをしていたとき、その表紙に惹かれて買った本です。
表紙になっていたのは歌川国芳の「子供遊土蔵之上棟」という浮世絵の一部で、全体を見るとさらに魅力的です。
間伐材の棒杭で足場を組んであって、上棟式に必要な魔除けのための幣束(へいそく)は、今まさに揚がろうとしています。
子どもの大工さんたちの姿に比べると、木組みは「ありゃっ」っと思ってしまうシンプルさですが、画力のある国芳のことですから、子どもたちを目立たせるためにわざとシンプルに描いているに違いありません。
38人(かな?)の子どもが描かれています。
群衆を描くことが得意だった国芳にしてみれば、38人なんて朝飯前だったことでしょう。
「忠臣蔵十一段目両国橋勢揃図」のこの混み方、
「大山石尊良弁瀧之図」のこの混み方に比べれば、38人なんて、何でもありません。
富士講と言い大山講といい(モースの見た江の島の込み方と言い)、日本人はその昔から、人が行くところに自分も行くのが好きな民族だと感心してしまいます。
それにしても、国芳はすごい!これは「荷宝蔵壁のむだ書」という役者絵です。
綱紀粛正と奢侈(しゃし)禁止の天保の改革下、似顔とわかる役者絵の出版は禁止させられていましたが、国芳は訳者を猫にしたり亀にしたりするほかにも新しい発想を発信し続けています。
これは、漆喰の蔵の壁の落書きと言う設定の役者絵です。真ん中には猫又がいます。
こんな絵を描くのに、落書きみたいな絵を描いているのです。
さて、青幻社とはあまり馴染みのない出版社だと思ってネットで見てみると、まぁ面白い本をたくさん出しているので、びっくりしました。コロナが落ち着いたら、図書館で探してほかの青幻社の本も見てみたいものだと思いました。
青幻社のホームページの目録を見ていたら、これまで気づいてなかったけれど、青幻社の本が、うちにもありました。
『中国手仕事紀行』(奥村忍著、2020年)と、『フジモトマサル傑作集』(2020年)でした。
どちらも、楽しめる本でした。
忠臣蔵や大山の絵は版画ですよね?これを彫るなんて気が遠くなるー。
返信削除hiyocoさん
返信削除「浮世絵師」は、大衆の好きな絵を大量生産するので絵師(伊藤若冲とか池大雅など)より低く見られていたようですが、浮世絵師にしろ、彫師にしろ、摺師にしろ、すごい技術です。中でも国芳はもう、すっごい絵心。それを意気に感じて瞬く間に木版をつくった人や摺師がいたなんて、恐ろしいほどです。
第一、版木用の薄くて平らな板をつくることがそもそも大変なことでした。そして、絵の具の材料の鉱物や植物を手に入れて、絵の具にするのも大変だったことでしょう。
そう考えると、人間はどんどん退化しているのは間違いないようです。