2021年1月30日土曜日

ボコール山

本棚からはみ出しそうになっているファイルを、別の場所に置き直そうと手に取ってみると、新聞や雑誌の切り抜きが入っていました。ずいぶん長く見てなかったのでパラパラとめくると、見覚えのある写真が目に入りました。



カンボジア南部の港町カンポットにほど近い、ボコール山のカジノの廃墟です。
海から一気に切り立った、標高1079メートルのテーブル台地のような姿のボコール山は涼しく、フランス統治時代には避暑地として、カジノやホテル、金持ちの別荘、そして王の離宮や教会までが建ち並んだ、天空の歓楽都市でした。

1990年代の終わりごろ、私はカンボジアで働いていましたが、事務所の所員一同でボコール山に行ったことがありました。雨季の船旅を別にして、当時のカンボジアは道路も交通網も悪く、カンボジア人たちには、まだ行ったことがない、行ってみたいけれど自力では行きにくいところが、アンコールワットをはじめとしていろいろありました。
私の働いていた団体は、何から何まで寄付で成り立っていましたが、日本からの訪問者の中には、「活動費としてではなく、スタッフの皆さんの福利厚生に使ってください」と言って、100ドル、200ドルと置いて行ってくださる方たちがいました。それを貯めて置いて、年に1度の旅行費用に当てていました。
そのときは、いつものようにバンとランドクルーザーを連ねて、目的地のカンポットに行く途中でボコール山に寄ったのですが、とても不気味な場所でした。密林を抜けて山を上ると、深い霧が立ち込めて視界が悪いのですが、麓から頂上まで、人影はまったくありません。そんな中に、忽然と廃墟が現れるのです。まさに鳥肌の立つゴーストタウンでした。


あのときは、17、8人ほどだったか、たくさんで行ってよかった、数人だったら怖さに車からも降りられなかったほど、空気は冷えきっていました。濃い霧は刻々と動いていて、みんなで座っていた岩の霧が一瞬晴れると、すぐ後ろが切り立った崖になっていて、背筋が寒くなったりしました。


かつては、東南アジア諸国から、豪華カジノ目当てに富豪たちが集まってきたらしいのですが、漂っているのは霊気ばかり、下山したときは心底ほっとしたものでした。
ところで一番上の写真は、カード会社が送ってくる雑誌に連載されていた「世界旅行記」というコラムで、中村孝則さんの文と秋田大輔さんの写真とで綴ったものでした。
その文によると、かねてから中村さんはボコール山を訪ねたいと思っていたところ、プノンペンに住む友人から「ボコール山の入山許可が下りた」という電話を貰って勇んで行きました。それがこの写真です。ところがその1か月後には、ボコール山の巨大リゾート開発が決まって、入山禁止になったそうでした。切り抜きのことゆえ、はっきりとした日時はわかりませんが、2009年頃の雑誌のようです。
私たちがボコール山に行った当時、そこは完全に忘れられた場所で、もちろん、入山許可など要りませんでした。
ボコール山は、1970年代にクメール・ルージュが周辺を占拠し、この地を巡ってヴェトナム軍との戦闘もあり、街は完全に廃墟となり、歴史からも消えてしまっていました。

こんな、晴れることもあるんだ!

そして以後どうなったか、ネットによると、開業1920年のル・ボコール・パレスは、リニューアルして、2018年に再開業したそうです。
「えぇぇぇ、これがあの廃墟?うそ!」
まぁ、プノンペンには1990年ごろまで、ほぼ廃墟のような建物がいっぱいあり、やっと改修して泊まれるようになったホテルも、泊まれる部屋は限られているし、客もほとんどいない有様でした。薄暗い明かりをひとつ灯した部屋で、がらんとして薄汚れた壁を見ながら横たわると、幽霊が出てきてもおかしくないと思えました。それがだんだん、きれいなホテルに改修されていきました。
2000年前後に私が暮らしたアパートも植民地時代の建物でした。だから、古い建物をリニューアルして長く使うことには驚きませんが、それにしてもこれ、すごくないですか!
こんな技術があれば、アンコール・ワットだってリゾートホテルにしてしまえそうです。


ここはもう、亡霊たちが行きかう場所ではなくなっているようですが、コロナでどうなっているか、ちょっと心配です。
また、ゴーストタウンに逆戻りしているかもしれません。






 

12 件のコメント:

  1. グーグルマップでボコール山を散策しました(笑)。高台で眺めは壮大ですね。コメントでみんな「霧」について書いていたので、かなりの確率で濃霧が発生するのでしょうね。
    ストリートビューで、ホテルになる前のル・ボコール・パレスの中に入れました。ただのコンクリート打ちっぱなしでおどろおどろしい廃墟感はなかったです。近くの教会の中は落書きだらけで怖かったです。

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  2. hiyocoさん
    いつもながらすごいなぁ!そんなことができるなんて、思っても見ませんでした。
    で、私もグーグルマップのストリートビューで見てみました(笑)。よくわからないけれど、モルタルで修理した後とかの写真じゃないかしらね?これだったら、全然怖くないです(^^♪
    こんなにきれいに整ってはいなくて、怖いところがいっぱいあったような気が...。そして、もともとはコンクリートではなくてレンガ造りだったと思います。

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  3. hiyocoさん
    モルタルを塗り直した写真を発見しました(https://ameblo.jp/dac-cambodia/image-12017409755-13284768062.html)。2015年だって。このころ、誰かが撮影したのでしょうね。

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  4. 2015年の写真は今グーグルで見れるものと同じようにモルタルで塗り固めていますね。レンガの時と作りは全く変わっていないから、上から塗ったんでしょうね。
    以前のストリートビューは車道だけでしたが、今は観光地とかは建物の中に入れたり、遊歩道を辿れたりできるようになりました。アリゾナの知人が「いつか遊びに来て、近所の国立公園に行きましょう」と言ってくれたので、どんな場所かGマップで見ていたら、サボテンが点在する岩山のトレッキングルートに入りこんじゃってびっくりしました。

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  5. hiyocoさん
    カンボジア人おそるべし。外装はともかくとして、水道、電気、下水なんかはどうしたのでしょうね?特に水は難しそう、ちょっと信じられません。日本だったら、絶対新築の方が安くつくと思われます。

    グーグルで、行かないのに見えちゃうなんて、すごい時代です。
    私も昔住んでいたところのストリートビューを、喜んで楽しんだことがありました。航空写真も、時代をさかのぼって見ることができて、なかなか面白いです。
    こんなご時世ですから、グーグルマップをお互い、楽しみましょう(笑)。

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  6. 見ました!ホテルを見つけるのに少々手間取りましたが、内部やバルコニーからの眺めも見る事ができました。
    カジノで大負けした人がこの断崖から身を投げたりもしたとか・・・
    今は、プノンペンから片道$12のシャトルバスでも行ける様です。

    グーグルマップ恐るべしですね。
    以前、夫の実家をグーグルマップで見たところ、なんと家の前に立っている義母の姿が写っていました。顔はぼかされているものの、姿ではっきり義母だと分かります。撮影されていた事など気付いていませんでした。

    この様なプライバシーの問題はさて置いて、グーグルマップ旅楽しみます。(hiyocoさんにも感謝です)

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  7. reiさん
    見ましたか!(笑)。
    私はホテルとして改装されてからのビューは見ていません。家を建てていて一番面倒なのは水回りですが、ホテルって全館水回り、それを考えて幽霊屋敷と重ね合わせたら、何だか見ることができません(笑)。
    シャトルバスがたったの12ドル?そんなでいつホテルの改修費は回収できるのでしょうね。中国が手厚くお金を貸し付けているのだろうと思うと、ぞっとします。

    カンボジア最大の港があるシハヌークビルには、仕事でよく行き、いつも食事するところがありました。歩いて急な坂を下りるとそこは小さな入り江になっていて、砂浜のすぐ近くに海の家みたいな、半分は戸外のようなレストラン(というか食堂)がポツンと建っていて、厨房も半戸外、シーフードが美味しくて、いろいろ食べることができました。浜辺は短く、前に海が開けているのだけれど壺の底のような感じ、誰もいなくて隠れ家のような場所でしたが、2000年頃にそこがリゾート開発されることになって、レストランは立ち退き、一帯が立ち入り禁止になりました。
    シハヌークビルでは最高の場所でしたが、あれからいったいどうなっていることやら、グーグルマップで見ることができると思いますが、恐ろしくてとても見られません。

    私もずっと前に、息子に教えてもらって、はなちゃんの通っている小学校の近くをはなちゃん母子が歩いているストリートビューを見たことがあります(笑)。こうなると、グーグルマップでエベレストでも登れるし、会いたい人に会うことさえできそうですね(爆)。

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  8. ストリートビューは定期的に新しい画像に差し替えられますが、過去の画像も見れるのはご存じですか?私もついこの前しったばかりですけど(笑)。
    ストリートビュー上で亡くなった両親が実家の前で写っているのを発見した人が、できるだけ更新されないで欲しいと書いたら、ストリートビューの左上に表示されるボックスに矢印で囲った時計マークがあるので、それをクリックすると過去のバージョンを選択できますよと教えている人がいました。この機能を使えば、懐かしい人に会えたり、「あれ、ここ前何があったんだっけ?」と思い出したい時に確認できます。
    しつこくル・ボコール・パレスですけど(笑)、てっきり新しく建て直したのかと思っていましたが、HPのヒストリーで見ると建物のサイズ感とか変わっていないので、改装のような気がしてきました。もし外側だけ変えたのなら、その技術の凄さと、その中身大丈夫ですかという不安が入り混じりますね。
    5枚の各年代の写真があって、春さんが見たレンガ造りは荒廃して外側が剥がれてしまったタイミングだったみたいです。写真に興味があるなら見てみて下さい(http://www.lebokorpalace.com.kh/history/timeline)。見たくないなら無視して下さいね(笑)。

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  9. reiさん、どういたしまして~(書き忘れました!)。

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  10. hiyocoさん
    マップは過去に遡れるのを知っていましたが、ストリートビューも過去のが見えるのですね。知りませんでした。
    ルボコール見ましたよ(^^♪この3枚目の写真は2000年と書いてありますが、私が見たのはたぶん1999年、ちょうど最も荒れていたときだったのですね。
    現在のルボコールの写真の、海に向かって主建物の左前に、低い建物がありますが、あの中に大きなジェネレーター(バッテリーみたいなもの)をいくつも並べているのかなと思いました。よくホテルではそうしていいました。それにしても、充電はどうするのか?
    水は、カンボジアのことだから、上水は毎日給水タンクが何台もで運んでいる可能性もあります。そして、下水は100年前のしっかりしたのがあったりして!

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  11. 昨日の朝日新聞朝刊に「カンボジアのリアム海軍基地 中国、軍事利用計画か」と言う記事が載っていました。掲載の地図を見ると、ボコール山の近くでした。早速グーグールアースで見てみると、春さんの思い出の地シハヌークビルは更に近い。

    記事には「カンボジアの海軍基地をめぐり、中国が軍事利用の計画を進めている疑いが浮上している。リアム海軍基地は、ベトナムやマレーシア、フィリピンが中国と領有権を争う南シナ海に開かれたタイ湾の入り口に位置する軍事的要地。カンボジアと中国の結びつきが心配される。」とある。

    春さんが懸念していたカンボジアでの中国資本の投入は着々と進められている様です。世界がコロナで苦しんでいる間にも。

    この記事、こちらのブログを見ていなかったらスルーしていた事でしょう。お陰様で、色々と勉強になります。

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  12. reiさん
    フンセンの強権は中国の後ろ盾があることは確か、人権問題をまったく問わずに援助するのが中国の常とう手段です。カンボジア政府は、中国に港を使わせてあげるなんて、朝飯前でしょうね。
    トルコ在住の方のブログを見ていると、コロナのワクチン接種はもうずいぶん進んでいる模様、ワクチンは中国製です。コロナ下で中国製のワクチンを配ることでも、中国は世界にどんどん陣地を拡大しているのでしょう。
    ヴェトナム人も中国を嫌いながらも深い関係があるようだし、ラオスもマレーシアもとなると、南シナ海支配も、定着していくのかもしれません。以前ヴェトナム人に、「あれっ、ヴェトナムの海は何ていう海だっけ?」と訊いたら、苦笑いしながら「南シナ海だよ」と言っていたのを思い出します。
    中国の目指している現代的な世界制覇とは、いったいどんなものなのでしょうね?

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