先日、真鍮の針金でつくった網杓子に、フナコレタロさんがコメントをくださったように、手づくりの道具は、材料によって加工方法が決まり、形まで決まります。
2度ねじって、編みながら立体にする技術は、針金を使ってこそのこと、糸や紐ではできませんし、竹だったら別の編み方になります。
さて、針金の歴史は、思ったよりも古いものです。
見つかっている針金のもっとも古いものは、BC3000年頃のエジプトの金銀の針金です。当時の製法は、金属板を短冊に切り、薄く削って整え、ねじって圧縮して強度を増すという、とても手の込んだものでした。
日本でも、古墳から青銅や銅を細く削ってつくった針金状の金属が多数出土していますし、奈良時代には金属を叩いて伸ばす加工技術が確立しています。
もっとも、針金は実用というより、おもに装飾に使われていたようです。当時は兜やら刀やら、装飾した金属製品がたくさんありました。
そして、19世紀初頭になると、日本各地で大規模に、今日見るような針金がつくられるようになっています。
日本で普及していた針金を使った道具といえば、餅網や網杓子です。私が小さいころの餅網は、やはり亀甲に手で編んだものだったと記憶していますが、今では工場製品の金網でできています。
我が家に今ある餅網を見ると、既製品の波型の針金で織られた金網を使っています。
波型の針金を使うと、織った針金が動かない、焼くものが網にくっつかないという利点があるものと思われます。
石綿のついた網の方は、切り端を縁に溶接してありますが、丸い餅網の方は薄い金属板で包んであります。
我が家には、ほかにも少しだけ、針金や金網を使った台所道具があります。
ステンレス網の、縁を竹で始末した片口の籠です。
薄い網は、太めの針金で形が崩れないように保護されているのですが、この輪に曲げただけの足が以外に役立って、とても使いやすい籠です。
米をとぐとき、これまでいろいろな笊を使いましたが、これが一番使いやすいもの、水の切れも、口の使い勝手も、なかなかいいのです。
最後のつくり手さんがいなくなって、しばらくつくられていませんでしたが、久しぶりにネットショップを覗いたら、同じ籠が、(たぶん違う職人さんによって)復活されたようです。
ステンレスの網でつくった落し蓋です。
以前は大小の木製の落し蓋を使っていましたが、季節によっては、真っ白にかびていました。煮汁がしみ込んでいるせいか、頻繁に洗ったり干したりしてもかびと縁が切れず、仕方なくこれに替えました。
なんだか、落し蓋をしている気になれないのですが、手入れがずっと簡単になりました。
針金や金網をつかった台所道具としては、竹のなかったヨーロッパの台所道具に、一日の長がある気がします。
この、金網を加工した野菜の水切りは、イギリスのものです。
便利便利。洗ったレタスなどを入れて、外で力いっぱい振れば、簡単に水切りができます。
ほぼ毎日のように使っているのですが、金網はつぶれたりしません。
前にも紹介した、細い針金を巻きつけて形づくる台所道具、卵入れとそのミニチュアはフランスのもの、ケーキ冷ましと網杓子はイギリスのものですが、数種類の太さの針金をうまく組み合わせることによって、形をつくり出しています。
こう見ただけでは、何も感じなかったりしますが、
今できの工場製品と比べてみると、手づくりの編みは優しくて温かいことに気づきます。
針金をぐるぐる巻いた持ち手、棒に巻いてつくったのでしょうか?
手づくりの道具には、随所に魅力が詰まっています。
焼き網からはじまって、針金の持つ道具の文化をおもしろく堪能いたしました!
返信削除最後の写真にある巻き針金の素材はなんでしょうね。私は釣り具の螺旋を自分で巻くのですがステンレスは巻き始めと巻き終わりが非常に難しく、うっかりすると跳ね返りで顔を怪我しそうになります。大所用品のそれらは特別な工具を使わず手巻きで作られた場合、銅やアルミ・鉄などの少し柔らかいものでしょうね。
返信削除フナコレタロさん
返信削除ありがとうございます。
フナコレタロさんが編み方のことに触れていらっしゃったので、「そうか、洋の東西では編み方が違う」と持っている道具を見たら、結構金網を使ったものがある。では金網っていつからつくられているんだろうと、おかげさまで興味がいろいろ広がっていきました。大げさに言えば、世界には金網以前と金網以後があると(笑)。
そして今、竹のある地域では篩は竹でつくられていたけれど、竹のない地域では金網以前は篩は何でつくられていたのか、気になっています。もちろん、柳でも木の皮でも透かし編みにはできるし、馬の毛や絹を使っていたとも思うけれど、馬の毛はどうやって織ったの?知りたいです(笑)。
hattoさん
返信削除鉄です。いわゆる昔の針金です。
私は針金をコイルに巻いたことがありませんが、かなりしっかりして固いものです。
ままごとの卵籠の方、ちょっと形が崩れているので、鉄の棒を使って押して型崩れをなおそうと思いましたが、ビクともしませんでした。固いです。たぶん、来る日も来る日も固い針金を曲げてコイルにしていた達人がいたのでしょうね(笑)。
人間はどんどん、持っていたはずの能力を失っています。
春さま
返信削除以前みたネパールの資料に、そういえばかなり変わった篩?がありました。
木のへぎ板に片面太鼓のように皮を張り、焼き串のようなものでぼつぼつと穴をたくさん穿けたもの。まるで精度を求めていない作りながらも、これですと強度のほどはともかく、編組以前に簡易に篩を仕上げることができ面白いとおもいました。日本の編組の篩では、竹以外にもツヅラフジ材のものもありますね。
フナコレタロさん
返信削除それは興味深い篩ですね。見てみたいです。
西洋のコランダーなども、パンチングメタルの祖といえば祖ですが、何かに穴をあけるというのは、最初に思いつくことかもしれません。ネパールだったら皮もいいけれど、厚手の手漉き紙でも篩ができそうですね。
ツズラフジの篩、骨董市などで見かけます。もう農作業はしていないし、それでなくても篩がいっぱいあって、買ったりはしませんが(笑)。
粗めの篩と風選箕があれば、昔は何とかなったのかもしれません。