2021年4月18日日曜日

麦わら細工のマトリョーシカ


我が家の近くでは、月に二度骨董市が開かれています。
1月は東京にコロナの緊急事態宣言が出たので中止、2月は再開されたのを私が知らなかったので行かず、3月はずっと週末のお天気が悪くて中止という具合で、4月第1週になって、今年初めて足を運びました。
でもその日は、東京の大きな骨董市と重なったため出店数が少なく、閑散としていたし、用もあったので早々においとま、今日が私にとっては初めての骨董市のようなものでした。
おもちゃ骨董さわださんの店をのぞくと、待ってましたとばかり犬のミルキーの話になりました。下半身不随のミルキーは、糖尿病の合併症で眼を病んで、どう治療するか、眼球を摘出するか、この2か月は病院通いの辛い日々が続いたのだそうです。辛抱強い犬が痛がって鳴いた、もっと早く気づいてやればよかったとさわださん、嘆くことしきりです。
ミルキーは、3歳で椎間板ヘルニアを患い、おしっこもうんちも自分でできなくなりました。以後10年、さわださんは日に何度も強制排泄を手伝ってきました。おしっこは絞り切れないので腎臓を悪くする犬が多い中、さわださんはお医者さんも感心するほどよくお世話していたのに、運動不足から糖尿病になり、目も悪くしてしまいました。
でも、こんなに世話をしてくれる人なんていないよ、ミルキー。犬みょうりに尽きます。うちの近所の自称動物好きのおじさんなんて、犬が交通事故にあって骨折したら、あっさり安楽死させてしまいました。


さて、そんなさわださんの話を聞きながら、目の端は2体のマトリョーシカを、ちらちらととらえていました。キーロフのライムギを貼ったマトリョーシカと、セルギエフパサードのマトリョーシカが並べて置いてありました。
キーロフのマトリョーシカの麦わら細工は、遠目にも相当手が込んでいます。ミルキーの話が一段落したのを見計らって、マトリョーシカを見せてもらいました。


サラファンの飾りだけでなく、プラトーク(スカーフ)の房飾り、袖の刺繍など、これでもかと麦わらが貼ってあります。


さわださんは、ちょっときつめのマトリョーシカを開けながら、
「たくさん入っていたよ。ほらこんなに」
「まだまだよ。切り込みがあるじゃない」
「えっ、もっと?」
全部開けてみると、最後の一番小さい娘が失われているだけでした。


後姿、とくに赤は退色していなくて、とてもきれいです。
世間の常だと、何ごともシンプルなものが、職人さんの手が上がるにつれてだんだん複雑化し、やがて効率化を求めて手抜きしていき、ものの持つ力が失われてきます。焼き物しかり、建物しかり。それに当てはめると、これは1970年代につくられたものではないかと思われます。


「小さいのは?」
「あぁ、こっちは、中が空っぽ。おまけにつけるよ。こっちの方が古そうだね」
というわけで、底のスタンプがUSSRだけ読める、セルギエフパサードのマトリョーシカはいただいてきました。
確かに、『マトリョーシカ ノート3』を参照すると、1960年代に入るともっと垢抜けしてきます。1950年代のものかもしれません。

「そう言えば、千葉でマトリョーシカをいっぱい集めていた人がいたなぁ。なんていったかなぁ?」
「えぇぇ、さわださん千葉でもお店を出しているの?」
マトリョーシカを集めていた人といえば、道上克さんが思い浮かびましたが、私もとっさで度忘れしてお名前が出てこない、
「年配の男の人でしょう?」
「そうそう、前はこけしを集めていたんだけど、マトリョーシカに替えて」
「間違いない。あの人だわ」
なんてお名前だったかなぁと考えながら、会場をグルっと一回りしたら、道上さんのお名前を思い出したのでさわださんの店に行き、確認しました。
それにしても、道上さんが骨董市を廻っていらっしゃったとき、さわださんとも馴染みだったなんて、世間は狭いものだと思いました。今はどうしていらっしゃるのでしょう?多分世界中のネットオークションで掘り出しものを探していて、骨董市には出かけてはいらっしゃらないのではないかと思います。


さて、まことさんともお話しました。
「今日はにぎやかでいいですねぇ」
「あぁ、お天気もいいしね。でも骨董屋さんたちの高齢化が進んでいるんで、誰彼故障するのよ。今日も3人お休みだよ」
とのことでした。
「若い人は朝早く起きて、重い荷物を運んで、並べたりしまったりしたがらないからね」
そうなんだ、骨董市界にも高齢化の波が押し寄せていたのです。
京都の東寺の「弘法さん」で、骨董市が開かれるようになったのは、1970年代だったでしょうか。やがて、ほかの場所でも行われるようになって、定着したものの、ネットの普及で衰退しそうになっているなんて、知りませんでした。
ネットオークションは、出品者と落札者はものだけのつき合いですが、骨董市は骨董屋さんと客のおつき合いの楽しみがあります。
似ているようで、まったく別ものの感じもします。




 

8 件のコメント:

  1. 麦わら細工のマトリョーシカ、やっぱり良いですねー。
    徒歩圏内にロシア雑貨のお店が数年前にオープンしていたのを最近知りました。開店時間は日曜日の午後だけとの事でなかなかタイミングが合わずにいますが、このマトリョーシカを見てウズウズしてきました。

    さわださん、頭が下がります。我が家にもアトピー性皮膚炎を患う10歳の黒柴がいるのですが、なんとか治して上げたいとこの7年間に幾つもの治療を試みて来ましたが効果がありません。昨年は腸のガンも患い手術しました。ミルキーのお世話はもっともっと大変だと察します。

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  2. reiさん
    職人さんたちの息遣いが聞こえてくるような麦藁細工のマトリョーシカ、偶然出逢ってよかったです。長く骨董市もご無沙汰していましたからね。
    日曜の午後だけ開店のお店って、どんなお店でしょう?ものすごく品ぞろえがいいか、ちょっとしかないか(笑)。楽しみですね。

    そうなんです。さわださんすごいです。確か郡山にお住まいですが、下館にある椎間板ヘルニアの病院を教えて上げたらずっとそこに通っていらっしゃいますし、そこは目の専門医院ではないので、別の医院にも行っているようです。お金もかかりますよね。
    椎間板ヘルニアは若年で発症したら、時間との闘い、すぐ手術しなくてはなりませんが、その対応が遅れたのも悔やんでいらっしゃいます。それは仕方ないです。対応できる病院が限られているのですから。
    我が家の犬のように、運よく手術が間に合って、半身不随にならなくて喜んでいたのに、変人が道端に置いた毒をまぶした肉を食べて死んでしまうこともあります。「なんであの道を散歩したのか」という悔いが残って、1年ほどは立ち直れませんでしたが。

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  3. その時の状況を想像すると胸が痛みます。春さんの辛い思いを掘り起こしてしまいごめんなさい。

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  4. reiさん
    いえいえ、小春が死んで12年、もう乗り越えています。
    ところで、今朝突然思い出したのですが、ヘルニアを手術してくれた中島尚志先生は犬の皮膚病(https://www.nsdrive.com/user_data/nakajima.php)の第一人者でした。
    ものすごく忙しい方で、手術していただいて「麻酔が覚めたのできてください」と言われて行くと、先生はもう次の手術のため出発したあとという具合で、お会いしたことがないし、下館病院はおやめになって、今どこでやっていらっしゃるのかもわかりませんが、たくさんの獣医さんが中島先生の門下生になって技術や知識を受け継いだり、執刀をお願いしたりしているようなので、探すと見つかるとおもわれます。
    黒柴ちゃん、何とかよくなるといいですね。

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  5. いつ見ても、小さい娘たちの点で描かれた顔が可笑しいです。麦藁細工、凝ってますね!
    さわださんは春さん用にと思いながらマトリョーシカを仕入れているんでしょうか。千葉での繋がりもすごいですね!
    骨董市の始まりが私が生まれて以降ってことにびっくりしました。もし続いたとしたら、未来の骨董市ではパソコンやスマホも並ぶかな(笑)?

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  6. hiyocoさん
    麦わら細工は凝っているでしょう?
    ソビエト時代、職人さんは分業だったと思われますが、嫌々ではこんなに見事につくれませんよね?きっと仕事にプライドを持っていたんじゃないかしら。
    さわださんがマトリョーシカを持っていたのは、私の知る限り初めてです。猫好きとは知られているのですが、そのわりには招き猫はめったに持ってきません(笑)。その日も「どう?」と見せられたのは猫のガラス絵でした。勧められたらあんまり断らないんだけど、ガラス絵は「要らない」って言いました(笑)。
    骨董市は、これからも続いて行くものと思いたいですが、若い骨董屋さんの意識が変わってなくなる可能性も大きいですね。未来の骨董市でも、パソコンなどの実用品は並ばないような気がします(笑)。

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  7. 春さん、獣医師中島先生の情報ありがとうございました。現在、アトピー治療の特許を持つ福岡の獣医が薦める治療法を試みているところです。これまで何度もがっかりさせられて来たので、今回も半信半疑で始めていますが、中島医師のコメントを参考に、諦めずにケアを続けます。

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  8. reiさん
    何とか症状が軽減されるといいですね。
    いざとなれば、下館動物病院に連絡を取ると、中島先生の居所は突き止められると思います。何せ、日本国中を風のように飛び回っている方らしいのですが(笑)。

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