2022年9月3日土曜日

思いがけないお客さま

昨日、野菜を入れた箱を抱えて、突然玄関前に立っていた人がいました。
福島県の安達太良山の山腹で野菜をつくって暮らしているMさんで、夫は覚えていないだろうけれど、30年前にブラジルで夫に会ったとか、再び会いに来たと言いました。

1992年6月、ブラジルのリオデジャネイロで地球サミット(環境と開発に関する国際会議)が約10日間の日程で開かれました。
人類共通の課題である地球環境の保全と持続可能な開発の実現のため、具体的な方策を得ることが目的で、国連に加盟しているほぼすべての182ヵ国が参加、100余ヵ国の元首または首相が参加した、史上かつてないほど大規模な会議で、NGO(非政府組織)によるたくさんの催し(カウンター会議)もありました。そして、182ヵ国及びEC、多数の国際機関、NGO代表などによって、環境分野での国際的な取り組みに関する行動計画である「アジェンダ21」を採択しました。夫はこのとき、日本のNGOの代表として、会議に参加していました。
アメリカのカリフォルニア大学バークレーで森林学を学んでいたMさんは、アメリカのNGOとともにブラジル入りし、日本からのNGO参加者たちを訪ねて、夫に出会ったのだそうです。
そのとき、夫はたくさんの催しの準備や「アジェンダ21」に盛り込む草案づくりなどに忙しく、20代だったMさんに、
「英語ができるだろうから、翻訳と通訳を手伝ってやってくれ」
と言ったそうです。また、
「勉強なんかしないで旅をしろ」
とも言ったそうで、Mさんによれば時間にして5分くらいしか話さなかったのだけれど、夫の言葉によって、その後の人生が大きく変わったのだそうでした。

Mさんはそのとき、NGOの翻訳や通訳を手伝い、その後1年に及ぶ世界一周の旅に出て、カリフォルニア大学に帰ってからはデモに参加して逮捕され、国外退去処分となり帰国、東日本大震災を機に福島に移り住んで、自給的な生活を送りながら、地域を活性化させようと仲間たちと活動しているそうです。



彼の友人や仲間には我が家を訪れた人が多く、なぜか、あっちこっちで、夫のことを聞いていたそうです。
そして、夫に(認知症になったり死んだりする前に)会っておこうと、東京の家族のところへ行く途中で、我が家に寄ってくれたそうです。
どちらもよくしゃべるので、話は弾み、初めて夫と5分以上話せたとMさんは喜んでいました。そして、住んでいる古家を改修しているので、暖かくなったらぜひ安達太良山の村に来て、またいろいろ話したいと帰っていきました。
地球の状況はさらに深刻さを増しており、予断は許さないけれど、夫と出会ったことで人生が変わってしまったけれど、Mさん自身は今の生活に満足しているとのこと、車も、そして電気もやめようとしたら、息子さんに「やり過ぎ」と言われたそうでした。





2 件のコメント:

  1. まるでドラマになりそうな素敵なお話です。
    先生と客人とのかつての一期一会の出会いかと思われたものが、先生の知らないところで繋がり続けていたのですね。先生の一言で方向転換した一人の人生、言葉を受け止めた方が気付かずに心の底に潜んでいた意識を先生が引き出されたのではないでしょうか。

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  2. reiさん
    変わる素地がまったくなかったということではないでしょう。もともと森林学などを学んでいて、リオサミットまで出かけた方ですから。
    でも、100万回話しても全然通じない人がいる一方、一言二言で人生の方向転換をする人もいるなんて、面白いですね。
    それにしても、人生の分岐点というのは誰にでも、何度でもあるのではないでしょうか。もちろん誰かからの一言で決めることもないわけではありませんが、どの道を選ぶかは、その方その方次第です。
    Mさん、夫と出会わなかったら、今頃FAOなんかで働いていたかもしれないですね(笑)。

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