2010年7月9日金曜日

けずりかけ



1990年代初頭だったでしょうか、マレーシア、ボルネオ島、サラワクの、カヤン人の村に行ったときのことです。
その村は、事情があって古い村を捨て、新しいところに村をつくろうとしているところでした。古い村は主要交通網である川に面していましたが、新しい村は、川岸から熱帯林の中を1時間以上歩かないと行けないところにつくられ、そこには、村人全員が泊まれる、仮の住居の、長い長いロングハウスが、できたばかりでした。

明日から集会がはじまるというのに、集会所は、まだ完成していません。みんな、忙しく立ち働いて、どうにか、壁はないけど、床を張った集会所が完成しました。すると、軒先に、木を薄く削って、花のようにした飾りものが、いくつも飾りつけられました。

その飾りものは、日本の「けずりかけ」に、そっくりでした。




昔、東北地方を旅していたときに、けずりかけを見かけたことがあります。図のようなもので、かつては神具として使われたものですが、そのときは部分的に彩色されていて、おもちゃのような感じでした(図の出典、『日本郷土玩具事典』西沢笛畝著、岩崎美術社)。




そのけずりかけの、技法のもとは、アイヌのイナウからきています(写真の出典、同上)。

イナウは木でつくった御幣で、アイヌの祭神具であり、魔よけのシンボルでした。家では炉辺に立てて悪魔を払い、子孫繁栄を祈り、航海のときは舟のへさきに立てて、安全を祈りました。

イナウの技法が和人に伝えられて、けずりかけになりました。それが後に、山形県笹野の一刀彫や、各地の天神様の鷽などに、生かされました。笹野のお鷹ぽっぽは、玩具の中ではもっとも愛されているものの一つですから、もしかしたら、どこの家庭にも置いてあったりするでしょうか?

それにしても、どうしてカヤンの飾りものと、アイヌのイナウに、このような類似性があるのでしょう。しかも、どちらも、神聖なものです。

集会が終わったあと、いただいた飾りものを抱えて、熱帯林の中を歩いたことを、懐かしく思い出します。


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