その昔、バンコクに住んでいたころ、夫の元同僚Kさんのお連れ合いが、素敵なバッグを持っていました。
小さな、黒いビロードでできたバッグで、上は黒い地を少し残して、下の方に大輪の赤い花が何輪か刺繍されていました。
とっても華やかで美しいそのバッグは、Kさんのインド土産でした。
そして、Kさんが近々、またインドの同じ地域に行くとのこと、ご親切に買ってきてくださることになりました。
当時は、夫もKさんも、アジア太平洋の国々を忙しく飛び回る仕事をしていたのでした。
ほどなく、Kさんがインドから帰ってきたのですが、あの華やかな赤い花の模様のバッグは見つからなかったそうでした。
「どれでもお好きなのを。安いものだからさしあげます」
と見せられた二、三のバッグは、どれも格子模様になっている、地味なものばかりでした。
正直、ちょっとがっかりしましたが、そのうちの一つを、喜んでいただきました。
インドの、どのあたりのものだったかは忘れてしまいましたが、コードを折り曲げて縫いつけて模様を出しているものです。
バッグの表側と、短い持ち手がビロードで、他の部分は繻子でできています。
ただの紐のように見えるコードは、よく見ると、大小さまざまな金属のコイルでできています。
上端の真ん中のところは、引っかけてコードが伸びてしまいましたが、そうっと押したら金属コイルですから少し縮んで、おさまっています。
当時は地味すぎて好きになれませんでしたが、いつのまにかこれが地味だとは思えない年齢になってしまいました。
横幅が20センチほどの小さなバッグで、デジカメ一つ入れるともうハンカチくらいしか入りませんが、着物によし、民族衣装によし、結婚式にはなくてはならない重宝なバッグとして今も大切にしています。
Kさん、その節はありがとうございました。
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