2012年11月11日日曜日

カンポン・ボーイ


『the kampung boy』の日本語版、『カンポンのガキ大将』 (ラットさく、晶文社)が発売されたのは、1984年のことでした。
カンポンとはマレー語で村のことです。


『カンポンのガキ大将』は、著者ラット自身の幼い時のことを描いているのですが、随所にマレーシアや他の東南アジア島嶼部(ときには大陸部も)に共通する風俗が見られて、どのページも見あきない楽しさに満ち満ちています(写真はクリックで拡大)。

赤ちゃんのゆりかごは女性の腰巻布(サロン)でつくられています。このゆりかごを、これでもか、これでもかと強くゆすりますが、ひやひやすることはありません。
赤ちゃんはすやすや眠ります。


この、上から差している光と、床にできた丸いものの正体はいったい何でしょう?

トタン屋根に開いてしまった小さな穴から、光が入っているのです。
このあたりの家の屋根材のトタン板は、よく再生品を使っています。だから、トタン板に釘穴が開いているし、なんだかんだで小さな穴が開いています。雨は、短時間に激しく降るスコールですが、雨が漏る心配はなく、また少々入ってもたいしたことはないのでしょう。

普通の田舎家では、たいてい床に釘穴の光が踊っていて、不思議な楽しさを演出しています。


台所がまた素敵です。
家本体の屋根はトタン葺きですが、差し掛け部屋である台所の屋根はニッパヤシか草で葺いてあります。
かまどは高くしつらえている木の箱で、灰を厚く入れて、そこに火を絶やさないようにしています。煙って、虫よけにもなります。
右の方には水瓶も見えますし、中央あたり、ホウロウのお盆で蓋をした鉢を置いたその向こうに、ココナツ削り器が立てかけてあるのも見えます。また、おかずなどを覆っている、蝿帳も素敵です。帽子のように、竹で編んであるのでしょう。


家の外観がまたまた素敵です。
二段にわかれた窓のカーテンが、このあたりの家らしいところ、カーテンはピンと張った針金に通されていて、通常開け閉めしません。


村の中心地、商店街のある通りです。
東南アジアでは、商店は中国系の人が経営していることがほとんどですが、黒い服の、中国系のおばあちゃんが通りに椅子を持ち出して、泰然と座っているのが見えます。このおばあちゃん、ラットやお店の子どもたちが大きくなっても、同じ姿で座っていて、繰り返し出てきます。

おばあちゃんは移民一世か、あるいは二世なのです。
東南アジアの国々の、いろいろな商店街では、この絵とまったく同じようなおばあちゃんが、日がな一日通りに座っているのを、よく見かけます。


東南アジアの多くの地域では、床に敷物(ござ)を敷いたら、そこが食卓になります。
そして、手で食べると、おいしさは口だけではなく手からも味わえます。

赤道に近いので、一年中朝六時ごろに夜が明けて、夕方六時ごろに日が沈みますから、明るいうちに調理してしまえばいいのにと思うのですが、暗くなってからろうそくの光で、夕食の準備をする地域がたくさんありました。

もっとも、今頃はどこも電気が来て、こうこうと明るく、灯を求めた蛾などが、室内でぶんぶんしているものと思われます。


ラットは大人気の漫画家で、本をたくさん出しています。
マレーシアに行くたびに本屋に寄り、『the kampung boy』や、その続編の『Town boy』など、ラットの本を買って、読みふけりました。


そのうち、英語版だけでなく、マレー語版まで買いました。マレー語は文字はローマ字表記ですから、意味はわかりませんが読むことができます。
そして、漫画ですから、意味がわからなくてもなんとなく話はわかります。

とくにラットの風刺のきいた、時事風刺漫画は痛快です。


4 件のコメント:

  1.  マンガもさることながら春さんの解説を楽しみました。
    家内の実家でも暗いうちに起きた母の火を起こす煙とパチパチとしばがはじく音から一日がはじまりました。
     水は水かめから、、そのうちご飯のできる匂いが流れてきます。
    元カノは
    「宵寝知らずの朝寝太郎」でした。

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  2. 昭ちゃん
    なんか懐かしいでしょう?
    室内がちょっと煙くさくなるのも、ご飯の炊ける匂いもいいですよね。
    奥様の母上も、大変だったけれど、暮しってそんなものだと思っていらっしゃったのでしょうね。
    水は水瓶から、雨が降ったらありったけのお鍋なんかで水をためる、ついでに雨の時に軒下あたりで身体も洗うって、それはそれでよい生活ですが、熱帯でも雨のシャワーってちょっと肌寒いですよ。

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  3.  春さん非農家なので手作りの家です。
    屋根は杉皮の上にかやを敷き詰め竹で押さえます。
    風呂はドラム缶なので敷石がないとあがれませんし結構煙いですよ。
    ガタビシの戸を開ければ青大将が落ちてきます。
    遠い町灯かりが星のように見える桃源郷でした。

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  4. 昭ちゃん
    そんなところで暮らしたこと自体が素晴らしいことですね。勲章(神様からの)ものです。
    やはり人間自給自足が基本だと思います。何でも政治が悪い、政治でなんとかしてくれというのにはなじまなくて。他人のせいにしたり、他人に頼っちゃったりしたらいけませんよね。
    しかし、青大将は怖いです。頭の上なんかに落ちて欲しくないです。害はないというけれど。
    バンコクに住んでいたころ、庭でコブラが頭をもたげているのと目を合わせたことがあります。また、タイの田舎できれいな緑の蛇の色に見とれていたら、「危ない、毒蛇だ」と言われたこともあります。いつまでも、蛇とはなじまないです(笑)。
    昭ちゃんのお連れ合いの生家あたり、なんだか行ってみたくなりました。

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