2013年10月22日火曜日

骨董市、あれこれ

日曜日、雨の降りだす前に骨董市に行きました。
夫が運転してくれると言うので一緒に行き、私だけ先に降ろしてもらって、歩いていました。雨が確実に降る予定なので、骨董屋さんたちはみんな車を敷地内に乗り入れ、車の外にはあまり商品を並べていません。そんな中で、きれいに、たくさんのものを並べていたのは、誰かと見ればおもちゃ骨董のさわださんでした。

前回は土砂降りだったし、私も入院していたりと、さわださんに会ったのは久しぶりでした。
さわださんは私を遠くに見つけると、
「このインクビンは持っていたっけ?」
といきなり大きな声で、本題に入ります。
「私、別にインクビンを集めてないけれど」
と言う暇もありません。


「ラベルが残っているのは500円、ないのは300円。乾燥していた中身を洗わなくちゃならなかったので、ラベルがほとんどとれちゃった」
「あら、そう」
さわださんは、いつもきれいに洗ったビンを持っていますが、数が多いとなるとたいへんな手間です。

「この前、大前神社に来た?」
「行かない、行かない。怪我して入院してたんだもの」
「そう?おれ、大前神社で血圧が高くなって気持ち悪くなって、途中で帰っちゃったんだ」
さわださんは、前にも倒れたことがあります。


というわけで、先週の大前神社では売り上げが少なかったのか、雨とはいえ、その日は売る気満々で、お店を広げていたのでした。
好きなことをして生きているようですが、骨董屋さんも身体だけが元手です。


「じゃあ、二つもらおうか」


二種類のインクビン、ラベルつきでお買い上げです。


丸善アテナインキは知っていましたが、ナショナルインキは知りませんでした。もっとも、丸善アテナインキの丸善は、あの洋書の丸善だったのですね。知りませんでした。
ナショナルインキはなんと今年まで続き、今年の四月に廃業、大洋インキにすべてを引き継いだそうです。染め物のみやこ染め本舗がつくっていたインクでした。
この二つはビンの形から、戦後わりと早い時期のもののようです。

あまやさんの前にいたら、夫がやってきました。
「おれ、今日は買いものしちゃったよ」


袋から取り出したのは、きれいに磨きあげたパイプレンチです。
「一本、500円だったよ」
「これ、500円じゃ買えないよなぁ。なに?もう建設は終わったんだろう?」
とあまやさん。まだ母屋ができていない頃、近くを通ったからと、我が家に寄ってくれたことがありました。彼は昔、鉄筋工だったか、仮枠大工だったかでした。
「それが、終わってないのよね。まだばりばりの建設中」
「いったい、何つくってんの?」
「納屋兼作業場よ」
「えっ、いくつになったんだよ。もう引退しろよ」
「そうもいかねぇんだよ」


夫は、ラシャばさみも買っていました。
「ラシャばさみは家に三つもあるじゃない!」
結婚するとき母が買ってくれたもの、夫のドイツ土産、それに家を建てるとき断熱材のウールを切るために買ったものがあります。
「おれ用だ。紙を切るんだよ」
「えぇっ、ラシャばさみで紙を切っちゃダメよ」

夫の机の上には、はさみが一つだけ出してあります。ところが、すぐ見えなくなります。すると私の引き出しを開けて、別のはさみを取りだし、たいてい元に戻しません。だから、私はいつもうるさく、決めたはさみしか使わないようにと言っているのです。
このラシャばさみは、大きいのでなくなりにくいし、私にうるさく言われないで、手元に置いておけると考えたようです。
でも、私にはラシャばさみを紙を切るという発想がありません。小さい頃から、
「このはさみで紙を切ってはいけないよ」
と言われて育ったので、ラシャばさみで紙を切ってはいけないということが、骨の髄までしみ込んでいます。


やれやれ。今ラシャばさみは、夫のペン立てに誇らしげにさしてあります。


さて、あまやさんが持っていたのは、こんなもの、それも大きな箱いっぱい持っていました。
織物の綜絖を吊るの使っていたものでしょうか?
「三つで千円」
「二つでいいのよ」
「.....」
「二つでいいんだけどなぁ」
「.....」
「三つは要らないいんだけど」


「これでも、安くしているんだよ」
「仕方ない、三つもらうよ」


「ありがとう。誰も価値をわかってくれないんだよなぁ」
と、あまやさんはためいきをついています。
いつも、自分好みのものだけ扱っているあまやさん。そんなあまやさんも、時には迷いもあるのかもしれません。
でもこれが、飛ぶように売れる?
見るからに汚いし、そんなことあるわけがありません。

民具は、がんこさんのように、蘊蓄とともに売らなくっちゃだめでしょう。これがつくられた背景など詳しく説明されたら、買いたい人も現れるかもしれません。

それにしても、がんこさんがいないことを寂しく感じる骨董市でした。


同じ用途の道具たち、上段が日本、中段がタイ北部(ランナー)、下段がカンボジアです。

タイやカンボジアのものに比べれば、日本のものは武骨なこと。こんな太い針金を曲げているのですから、そう古いものではなくて、この中で一番新しいものだと思いますが、仕事に耐えてきたたくましさは感じます。


4 件のコメント:

  1.  春さん
    いつも楽しい話題がてんこ盛りでたのしかー
    驚いていますよ。
     便利さの追求で生活が向上してもなにか、
    大事なものを忘れてしまいましたね。
     戦後新聞の連載漫画「ブロンデー」の生活様式に驚きでしたね、

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  2. 昭ちゃん
    楽しんでくださってありがとう。ブロンディだけじゃないですよ。アメリカ映画を見て、こんな生活している人が実際にいるなんて信じられませんでした。完全な別世界でしたね。もっとも、中学時代、会社社長の同級生の家に行った時もびっくりしましたが(笑)。両親の住む社宅とは大違いでした。
    インクは、私の時代ほとんどパイロットだっかかしら。友人から緑のインクの手紙など貰うと、新鮮さにドッキリしたものです。

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  3. みやこ染のインクとは、思わず笑ってしまいました。
     エリーゼの万年筆が吸引式だし、
    付けペンが好きなのでインクビンは欠かせません。
    でもほとんどカートリッチになったので残念です。

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  4. 昭ちゃん
    みやこ染めのビンはどの家庭でもありましたよね。お布団の布を染め直したり、毛糸を染め直したり。でも過去のものだと思ったら、今でもあるし(笑)。ナショナルインキも今年まで生き延びていたとは!
    青いインクの、表面が赤く金属的に光る感じや匂いなども懐かしいです。

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