2015年6月11日木曜日

身元が判明!


我が家の、居間とダイニングの間には、ちょっとした段差があります。
というか、居間はほかの部屋より、二段低くなっています。
段差のあるところに短い柱を立て、その上にインドの木彫りの像を固定して、手すりとしています。

木像は、1998年に、当時デリーに住んでいた友人を訪ねて行ったとき、連れて行ってもらった骨董屋で見つけたものです。


木彫りの象の背中には象使いが座り、天蓋つきの輿の中には二人の人物が乗っています。輿の中の人物は、王か聖者か神か、いずれにしても位の高い人たちのようです。
そして、象は左前足で、何故か一人の人を踏みつけています。


いったい、この木彫りの像は何なのか、ずっと不明でした。

ところが最近、『インド ミニアチュール幻想』(山田和著、文春文庫、2009年)を読んでいたら、著者の山田さんが、インド人の友人たちとウダイプルの骨董屋を訪ねるくだりがあり、その店の棚に置いてあった古い木彫の像のことで、店主と値段交渉をしたことが書かれていました。
もっとも山田さんのお目当てはあくまでも細密画で、木像のことで会話しているのは、値段交渉を有利に進めるための駈け引きに過ぎなかったようですが、木像の写真が載っていました。


うおぉぉぉ!
我が家の木像とそっくりです。
これは、1740年ごろ、ラージャスターン州サルンバールでつくられた、ジャイナ教の山車(だし)を飾る彫刻だと書いてありました。

身元が判明しました。


もちろん、私が持っているものは、250年以上前につくられたものではなく、時代はもっと新しいものだと思われます。
それでも、彫像だけでなく、台座の横に開いている、彫像を山車にくくりつけるための二つの小さな穴もそっくりです。


ジャイナ教の山車とは、どんな山車だったのでしょう?
ネット検索したら、こんな写真が見つかりました。

『インド ミニアチュール幻想』の中で、実際に古い山車から木像をはずしてきたという、自身もジャイナ教徒である骨董屋が語っています。
「山車を飾る一刀彫の彫刻は一つだけではなく、たくさんありました。象だけでなく、身体が獅子で頭が象、頭と身体が獅子で足が馬などというのもありました。輿の中にはマハーラージャが座っています。輿を乗せた動物たちだけでなく、楽隊の木像もありました」

現在の山車にもそのスタイルの名残があるとすると、周辺に立ててある赤い棒のようなものの上に、彫刻が乗せてあったのでしょうか?
それとも、まったく別な様式の山車だったのでしょうか?


ジャイナ教徒は、厳格な不殺生を守るため、生業が限られています。
もちろん兵士などにはなれないし、農業ですら、土を耕していると地中の虫を殺す可能性があるので、営めません。
そして、ジャイナ教徒は、イスラム教徒のようにヒンドゥーの外にいるのではなく、ヒンドゥー・カーストの商人階級に組み込まれていて、多くは金融や商業に携わり、成功して莫大な財産をなしています。
ジャイナ教徒の中には、菜食を守っているだけでなく、苦行僧たちのように、「生きているものだから」と野菜も口にせず、熟れて地に落ちた果物だけを拾って命をつないでいる人もいます。
そんな不殺生のジャイナ教なのに、象は何故男を踏みつけているのでしょうか?

謎の一端が解けましたが、残っている謎の解ける日が来るでしょうか。






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