2019年2月21日木曜日

メイデンの娘


ソヴィエト時代の、メイデン地方のマトリョーシカです。
ヤフーオークションで見つけて、開始価格だけ入札して放っておいたら、運よく我が家にやってきました。
メイデンのマトリョーシカの特徴は、くるくると巻いた髪とプラトーク(スカーフ)頭のてっぺんあたりに描かれた大きな花びらです。


このマトリョーシカで、何よりも関心を引いたのは花が大胆に描かれた後ろ姿でしたが、届いてみたら横姿もアートでした。
暗緑色の袖の服を着た手が、まっすぐ伸びています。


入れ子の、小さい娘たちの後ろ姿は、渦巻き模様がプラトーク(スカーフ)にスタンプされていす。

さて、『マトリョーシカノート3』(道上克、2013年)を見ると、メイデンのマトリョーシカのうち、一番外の娘が高さ20センチ以上のものは結び目のあるプラトークをかぶり、一番外の娘には両手が描かれ、髪の毛を一本に編んでその先にリボンを結んでいます。また、20センチ以下の小型のものは、結び目のあるプラトークも両手もなくて、リボンを結んだ髪も描かれていないそうです。
とすると、このマトリョーシカは、なかなか微妙です。
高さ19.5センチで、20センチには若干足りません。そして、結び目のあるプラトークと両手はありますが、リボンを結んだ髪はありません。

『マトリョーシカノート3』より

ちなみに、リボンを結んだおさげ髪はこんな感じです。

また『マトリョーシカノート3』によると、1960年代にはメイデンにマトリョーシカの工場があり、工場でつくられたものには20センチを超えたものが多かったそうですが、工場が閉鎖(閉鎖年は不明)されると村の各家庭の工房でつくられるようになり、20センチを超えるものはつくられなくなったそうです。

ところで、それは20世紀の話のようで、『マトリョーシカ大辞典』(沼田元気著、二見書房、2010年)を見ると、ロシアとなった現代では、個人の工房で20センチ越えの大きいものもつくられているようです。

『マトリョーシカ大辞典』より

この写真では、マトリョーシカが20センチを越えているかどうかはわかりませんが、文を読むとこの写真の男性はかなりの熟練者で、一日30個は悠に挽き、30個の入れ子をつくるそうです。

同上

30個となるなら、隙なく上手につくっても、一番大きいものはかなり大きくなることでしょう。

メイデン。『マトリョーシカ大辞典』より

沼田元気さんは、『マトリョーシカ大辞典』を出版された数年前に、メイデンを訪ねていらっしゃいます。2007、8年ごろでしょうか。
それまでメイデンは、沼田さんがモスクワでいろいろな人に訊いても、誰も知らない謎の土地だったそうです。というのも、当時はメイデンの近くに水爆の工場があったので、地図にも正確な位置を載せていませんでした。
そして、沼田さんがやっと場所を突き止めて訪れたとき、メイデン行くには鉄道の駅もなく、車で舗装されていない道を10時間も揺られて行くような、辺鄙なところでした。

同上

村には、電気は来ていますが、街灯もありません。
軒先に木を乾してあったり木が無造作にころがっているのが、マトリョーシカをつくっている家の目印になっていて、そんな家では納屋には轆轤を据えてありました。


さて、『マトリョーシカ大辞典』に載っている現代のメイデンのマトリョーシカの絵つけを見ると、人によってそれぞれですが、いろいろな地方のスタイルを取り入れて、自由に描いているようです。
くるくると巻いた髪は減り、結んだプラトーク(セミョーノフの影響)や編んだ髪が復活していて、手も描かれ、一番大きい娘だけでなく入れ子になっている中の娘たちにまで手が描かれています。


我が家にあるメイデンのマトリョーシカの二つは、底にラベルが残っています。


上の上の写真の後列右のもの(この写真では真ん中)には、メイデンの特徴であるきのこのスタンプの押された紙のラベルが貼ってあり、1981年と書かれています。
また、小さいものには、新し目の「MADE IN USSR」のラベルが貼ってあります。
そして左端、大きいマトリョーシカの底には、もとからラベルを貼ってあったかどうか、その痕跡さえ見えません。


ラベルがないので、工場でつくられたか、個人の工房でつくられたか、いつごろつくられたかもわかりません。

メイデンのマトリョーシカ。『マトリョーシカノート3』より

それにしても、メイデンのマトリョーシカたち、似ているようで似ていない、様々な表情を見せています。






3 件のコメント:

  1. 「リボンを結んだ髪はありません。」ということですが、上から二番目の写真も三番目の写真も、編んだ髪とリボンがばっちり後ろに描かれていると思いますが…。
    それにしてもマトリョーシカノートの作者の道上克さん、同じようなマトリョーシカを気の遠くなるくらいたくさん集めて研究してらっしゃいますよね。考古学で、収集した土器等の分類をするのと同様の手法で、場所と年代を特定してマトリョーシカを分類したと書かれていたと思いますが、…ただのマトリョーシカ好きとは違いますね。すごいです。
    一度京成バラ園でマトリョーシカ展を開いているときにそのコレクション(一部)を見せてせてもらいました。そういわれて見ると、今までぼんやり見ていましたが、地域ごと年代ごとに特徴があって、なるほど…とその学究的熱意とその量に感心しました。

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  2. karatさん
    もう、笑う以外ないですね。
    あれがリボンとは気づかなかった。何度見ても大きな花の茎で、それを結んであるのだと思っていました。なんて目が曇っているのでしょう(笑)。
    最初、「わぁ、大きな花だ!大胆だ!」と刷り込まれてしまって、バカでしたね。ありがとうございました。

    道上さんはすごいですね。メイデンのマトリョーシカの集合写真を見て、あれほどバラエティーがあるのに分類しようとすることに敬服すると同時に、ネット時代になる前はほとんど日本で手に入れられていた、ということは、マトリョーシカと言えばセミョーノフの時代にも、日本にもあんなにいろいろ入ってきていたことにも驚いてしまいます。

    それにしても、隠し絵でもないのに、見えていませんでした。今後気を付けます(笑)。

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  3. 春さんへ
    karatさんのコメントを見て、えーーーっと朝から大爆笑でした。私の目にも全く髪とリボンは見えていませんでした。花と色やタッチが同じ過ぎですよね。

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