『Folk-toys Les jouets populaires』(Emanuel Hercik著、ARTIA)は、フランス語と英語を併記して、1951年にチェコスロバキアで出版された、郷土玩具の本です。
巻頭で、著者のHercikは、おもちゃはその土地その土地で生まれ、つくり継がれてきた。しかし今後、都市と農村の垣根が低くなり、他地域との交流が盛んになるにつれ、消えていくかもしれないし、形が変わっていくかもしれない。
それぞれのおもちゃが消えることがあったとしても、自分が残した絵を見て、いつかもう一度つくることができるという期待も込めて、おもちゃの絵を描いたと記しています。
Hercikは1919年、今からちょうど100年前におもちゃの研究をはじめていますが、当時、おもちゃは研究の対象ではないし、文化として注目する人もほとんどいませんでした。
中国で文革の時代に、見つけられれば叩き壊されたおもちゃを必死に守った人たちがいました。チェコスロバキアの社会情勢も、第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて、決しておもちゃを愛でることができるような安寧な生活があったとは思えません。それにもかかわらず、Hercikは、おもちゃを描き続けて、後世に残しました。
『Folk-toys Les jouets populaires』が発行された1951年当時は、カラー印刷もそう進んでいなかったし、何よりカラーで印刷するにはとても経費もかかったと思われるのに、巻頭の歴史的なおもちゃ(古代エジプトとかギリシャとか)の絵の数十枚以外は、すべてカラーで印刷されています。
『Folk-toys Les jouets populaires』には、おもにはチェコスロバキアの各地のおもちゃが紹介されています。
制作された地方が表記されていますが、ここでは省略しました。
まずは、焼き物のおもちゃから。
左は様々な笛(楽器的なおもちゃ)、右は身近な動物のおもちゃです。
笛も、動物もおもちゃも、木や土で世界各地でつくられていて、土の動物たちは、ルーマニア、ロシアなどでも、似たものが見られます。
左は市場で売られていた豚の貯金箱、右はクリスマス前に立つ市で売られた鳥のおもちゃです。
左はトウモロコシの皮の人形、ほかに、てるてる坊主のような布の人形の絵も多数載っていますが、これらは家庭でつくられたものでしょう。右は木の着せ替え人形で、ボヘミアでつくられたものです。
古いタイプの木の人形(右端)は、ジョイントが金属ではなくて皮でつくられています。
ガルディーナ地方では、関節の動く木の人形が量産され、各地に運ばれましたが、その時期と重なっているのでしょうか?
馬は身近な動物、木馬はヨーロッパ各地でつくられ、チェコでも今もつくられています。
これらは、ロッキング・ドールと言うらしい。
お母さんの腕が動いて、赤ちゃんをあやすようです。右端の女性は、腕が動いて杵で搗くのでしょう。
ままごと遊びをするときの赤ちゃん人形です。
轆轤(ろくろ)を使って削り、轆轤で絵つけもしていて、日本のこけしによく似ています。
鳥笛や餌をついばむ鶏など、木でつくられた動くおもちゃは多彩でした。
右上の餌をついばむロシアスタイルの鶏も、チェコスロバキア各地でつくられました。
右の絵の、箱に座っている鶏はイースターのおもちゃで、底には油紙などが貼ってあり、下に垂れ下がっている麻糸や馬の毛を指に絡めてそっと引くと、鶏がコッココッコと鳴きました。
そして、この本が出版された当時、すでにこのおもちゃはつくられていなかったようです。つくるのが手間なうえに、壊れやすかったのかもしれません。
鍛冶屋のモチーフのおもちゃも、チェコスロバキア(ヨーロッパ)各地でつくられました。
木が2本あって、それを押したり引いたりすると、互い違いに動きます。
木の鶏は東ヨーロッパ、そのほかはメキシコ |
私の持っているおもちゃは、2本の棒を動かすのではなく、中を通る棒を押したり引いたりするもの、金属を握ったり放したりするもの、ボクサーは、間にある突起を押したり放したりして動かしますが、これらも鍛冶屋のおもちゃのバリエーションです。
このスタイルの動くおもちゃも、中南米やアジアなど、世界各地でつくられています。
木のミニチュアです。右のミニチュアは木の箱に詰められていたそうです。
アダムとイブと生命の樹は、メキシコやペルーの焼きものの定番ですが、ヨーロッパのもの、しかも木でつくられたものは見たことがありません。
おもちゃ職人がつくったおもちゃばかりでなく、家庭でつくられたおもちゃも紹介されています。
左は木の葉や木の実でつくったおもちゃ、右はジャガイモでつくったおもちゃです。
くるくる回して音を出すおもちゃは一年中売られていましたが、コーンクレイクスはイースターのときだけ売られたそうです。
下の二つがコーンクレイクスだと思われますが、いったいどうやって、トウモロコシで大きな音をたてたのでしょう?
『Folk-toys Les jouets populaires』には、チェコスロバキアのおもちゃだけでなく、ロシア、ポーランド、ダルマチア、ユーゴスラヴィア、ギリシャ、スウェーデン、北シベリア、ドイツ、スイス、フランス、インド、中国、日本、ズマ(南アフリカ?)、カッサーラ(Anglo-Egyptian Sudan)、北米などのおもちゃも紹介されています。
上は、どちらもロシアのおもちゃです。
我が家にある、ロシアのおもちゃたちです。
左はポーランドの木馬、右はダルマチアの木の笛です。
日本のおもちゃには、かなりのページがさかれていました。
左は天満宮の鷽(うそ)、右は赤ちゃん人形です。
左端の赤ちゃん人形は、日本のこけしと言うよりは、ヨーロッパの人形に見えます。真ん中は、熊本県日奈久のベンタ人形ですが、手足がありません。
これらの人形は、博覧会などの時にもたらされたようなので、もしかしたら赤ちゃん遊びを想定して、ヨーロッパ向けにつくられたものなのかもしれません。
日本の人形は、子どものおもちゃでありながら、お守りの要素も持っていることが、特筆されています。お守りの意味を持たせたおもちゃは珍しいのか(中国やビルマなどにもあるが)、とても詳しく書かれています。
また、真ん中のこけしは伝統的なものだけど、左のこけしは新作こけしであること、姉様人形は女の子が遊んだものであることなど、丁寧に説明されています。
ただ、左下の猿は、5月5日に子どもの成長を祝って高く掲げられるものと、誤った記載がされていました。
説明が、こいのぼりと混同されているのです。
登り猿が、こいのぼりとともに端午の節句に飾られたことは間違いないのですが、日本全国ではなくて、宮崎県の延岡地方に限ったものでした。
著者のEmanuel Hercik自身がつくったおもちゃも掲載されていて、轆轤挽きのファッション人形や、並び替えて建物や街をつくる積木も彼の作でした。
掲載されたほとんどのおもちゃは、出版当時、博物館に収蔵されているようでしたが、
チェコとスロバキアに分離した今も、チェコやスロバキアに行くとこのおもちゃたちと逢えるのでしょうか?
I really like your toy post! Thanks for sharing!!
返信削除Hi T
返信削除Thank you for your comment.
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