いつ頃からあったものか、通信こけしというものがあります。
こけしの胴の中が刳り抜いてあり、その中に細く巻いた文を入れ、ネジ式の蓋を閉めて荷札をつけて投函する、東北各地にあったもので、今でもつくられています。
私の持っている通信こけしは、スキー場とケーブルカーが描かれていて、蔵王の銘があります。
また、フォルムカードという、各都道府県の郵便局で売られている不定形の特殊はがきがあります。
例えば茨城県なら、名所霞ケ浦の帆船とか、特産の納豆、レンコンなどのフォルムカードが売られています。
郵便局で売られているフォルムカードでなくても、定形外としていろいろな形のものをはがき代わりに使うことができます。
これは、いつだったか、孫のはなちゃんから届いた、段ボール紙を切ってつくった猫のはがきでした。
左は弟の連れ合いのKさんが彩色して送ってくれた、マトリョーシカのはがき、右は彩色しようと買ったのに何もしていない猫のはがき、どちらも薄いシナベニヤを切り抜いてつくってあります。
これら、不定形の郵便物を送ることができるようになったのは、比較的郵便制度に余裕と遊び心が出てきた、昨今の現象、少なくとも戦後のことと思っていましたが、じつは戦前からあったようです。
牛の形をしたはがきは、薄い板を切って手彩色したもの、白いところにスタンプが押してあり、そのスタンプには「長野、12.3.27」と数字が入っています。昭和12年(1937年)のものと思われます。
壹銭五厘の切手が貼ってありますが、これを求めた人は、自分の記念にしたもので、投函はしなかったようで、裏には何も書いていません。
牛のはがきは、善光寺布引牛という、善光寺の門前で売られていた(今でも形を変えて売られているらしい)、練りものの牛を模したものです。
「牛にひかれて善光寺詣り」という言葉は聞いたことがあった人がいても、そのいわれを知っている人は少ないと思われますが、そのいわれはこうです。
強欲で、不信心なお婆さんが川辺で洗濯をしていると、一頭の黒牛が現れ、白布を角に引っかけて走り去りました。
その布欲しさに、お婆さんは牛を追いかけ、とうとうに善光寺まで来たとき、黒牛は姿を消してしまいました。そこで、お婆さんは霊感に打たれて善光寺に詣で、不信心を悔い改めました。
というわけで、黒牛は、白い布を頭に引っかけています。
こちらはこけし郵便ですが、立体的なこけしではなくて、板でつくったこけしを2体、台板に貼ったものです。
裏(表?)に、「此ノ所ヘ参銭切手ヲ貼付シテ下サイ」とスタンプが押してあります。
昭和12年のはがきの値段は一銭五厘ですが、これは特殊はがきですから、倍くらいした、やはり昭和12年ごろのものではないかと思われます。
このこけしのはがきには、宛名と通信文を書く境目に、「湯本靑年分團副業部」とスタンプを押してあります。
湯本とはお湯の出る温泉地のこと、地名として箱根と那須、鉄道駅名としていわきなどにありますが、こけしの形や絵つけから、山形県の肘折温泉でつくられたものではないかと思います。地元の青年たちが、力を合わせてつくったものだと思うと、郷土愛がひしひしと伝わってきます。
戦前にも、観光地ではいろいろなご当地はがきがつくられ、売られていたのです。
このようなはがきを受け取った人が、どんなにわくわくしたことか、想像に余りある、素敵な特殊はがきたちです。
郵便って、ここに切手とか、ここに宛名とか、サイズはこれこれなど、規則が厳しいイメージでしたが、案外自由なのですね~。通信こけしなんていいの?!って思ってしまいます。
返信削除マトリョーシカは、これで春さんの名前が発覚した、私にとって思い出のハガキです(笑)。また見てもテイカカズラが素敵。
hiyocoさん
返信削除はっはっは。あの節はお世話になりました。
子どものころ、官製はがきも今より一回り小さくて、大きさは厳密でした。自分でつくるときは1㎜も大きくならないよう、苦労したことがありました。
また、はがきにできるだけたくさん文を書こうとしても、宛名の面は半分以下しか通信文を書いてはいけなくて、違反すると突き返された気がします。今は、はがきは大きくなったし、「定形外」に入らないものは「規格外」で受けつけてくれるのだから大違い、宅配便ができるまで、郵便局は威張りくさっていました(笑)。
でも、そんな郵便局がこんな不定形な郵便を受けつけていたなんて、中学生くらいのときに知りたかったです。
「牛にひかれて善光寺詣り」、そうだったんですか!会社勤めの時に仲間たちと善光寺に行っているのですが、自分勝手に、その昔疲れて歩けない人が牛に引っ張ってもらった、と解釈していました(笑)。
返信削除はがきは、どれもいいですね。
こけしを見て思い出したのですが。
長男が生まれた時に、ドラえもんのぬいぐるみが配達されました。友達からのお祝いでした。たしかタケコプターを外すと中が空洞で電報が入っていました。今はないです。どうしたんだろう?
Bluemoonさん
返信削除もともと、ケチなおばあさんが不信心を改めるという民話があったのですが、今では“子や友に誘われて、気のすすまぬところへ連れて行かれる”という意味に使われるそうですから、あながち間違ってはいないようです。
はがきは、素敵ですよね。
今売られているフォルムカードは、残念ながら印刷で、面白みがありません。各神社仏閣で、暇な(?)神職さんやお坊さんが手描きしたはがきなんかがつくられたらいいのにね。お札だけじゃなくて、絵を描いたはがきがあったら、押すな押すなの大盛況になると思うんだけど。甘すぎるかな(?、笑)。