『東北の伝承切り紙』を読んだついでに、雑誌『季刊銀花』32号を引っ張り出してみました。1977年発行ですから、もう44年も前のことになります。
日本の伝承切り紙が特集されていて、切り紙がシンプルな御幣だけでなく、また東北だけでなく日本各地に伝えられていたことに、いまさらながら驚きました。
そして、そのいくつかは、すでに消えてしまったのではないかというのが、ちょっと心配なところです。
私たちが八郷に移り住んだ20年前には、大晦日には、麓から約1キロの山道である鳴滝不動の参道に、長いコードが引かれ、電灯が点々と灯されました。そのときは電灯でしたが、その昔は、ろうそくを灯した提灯を吊るしたに違いありません。
そして、大晦日が押し詰まってから元旦にかけて、集落のみんな、老いも若きも続々と歩いて、お不動さまにお参りしたものでした。
それを2度ほど経験しましたが、ちょっとしたことがあってある年に取りやめたら、それっきりになってしまいました。このように、何百年も受け継がれてきたことが、しかも個人ではなくて、集落のみんなで受け継いできたことでも、消えるときはあっさり消えてしまうものなのです。
そして、二度と元に戻ることはありません。
大陸からもたらされた切り紙は、人の手によってだけ伝えられ、受け継がれてきました。切り手が代替わりするとき、あるいは社会が変動するときなどに、あっさり消えてしまうのは、容易に想像できます。
神楽の舞台にめぐらす切り紙。宮城県五ヶ瀬町 |
切り紙は、正月、神楽、願舞、花祭りなどのおりに、なくてはならないものでした。
願舞のシキ。山口県岩国市 |
そのため、神楽や願舞、花まつりなどが続く限り、切り紙もまた続くものだと思われます。
八将神。台所に飾った御幣。宮城県金成町 |
切り紙は、場を清めたり、結界をつくったりするものです。
台所に飾った人形の御幣は、台所に立つたびに身が引き締まりそうです。
お潔祭りのボデン。長野県天龍村 |
切り紙をたくさん下げて中に明かりをともした梵天は、豪華で厳かです。
願舞の玉旗、銭旗。山口県岩国市 |
この玉旗、銭旗と呼ばれるものを見ると、カンボジアの農村のお寺を思い出します。神社ではなくお寺ですが、本堂全体に綱が張り巡らされ、切り紙やら切り布が賑々しく吊るされています。
チベットの祈祷旗タルチョも、祈りを込めたものです。
夜神楽が近づくと大勢でエリモノを切る。宮崎県五ヶ瀬町 |
お祭りは準備から、本当に楽しいものだったことでしょう。そして、お祭りが終われば、あくる年のお祭りにもう思いを馳せたことでしょう。
古戸の花祭りが終わったあと、野ざらしで残された八幡神社のザゼチ。愛知県東栄町 |
これは、お正月に行われた花祭りが終わって1か月も経った頃、神社の飾られたまま、雨ざらしになっていた切り紙だそうです。躍動的な馬が見えます。
紙で網をつくるやり方、ジグザグに折って厚みを出すやり方、東北の神社で見られる方法が中部地方でも見られるのが、何か不思議です。
渡り拍子の花笠。岡山県備中町 |
この花笠を見て、突然、私も幼いころ、祖母と母に花笠をつくってもらったことがあったのを思い出しました。あれは何の祭りだったのでしょう。和紙を食紅でぼかして染めて、何枚も重ねてつくった花笠のきれいだったこと、この写真を見なかったら思い出さなかったことでしょう。
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