2024年10月24日木曜日

サゴヤシを食べる箸


二階の展示室の掃除をしておりました。
高いところに置いてある、サラワクの削りかけを出したりしまったりするたびに、バラバラと木片が落ちて、下に置いてあるトレイにたまってしまっていたのです。トレイの中に置いてあるものを出して、きれいに拭いて戻していると、口琴に交じっていたものが目につきました。


「あれっ、何だったかな?」
すぐに思い出しました。サゴヤシの澱粉を食べるための1本箸です。


ラタンでつくってあり、先は4つに割ってあります。
1990年、サラワクでフタバガキ科の大木の伐採のため、熱帯多雨林の中を自由に移動しながら暮らしていた森の民プナンの人たちが強制定住させられたキャンプを訪れたとき、夕ご飯に、プナンの主食であるサゴヤシの澱粉を食べさせてもらい、そのときいただいてきたものです。
かねてからあこがれていたサゴを思いがけず食べることができて大感激、水飴よりちょっと固い感じに溶いたサゴの澱粉は、味はなかったのですが、とてもおいしいものでした。
泊まっていたカヤン人の村から、森の中を歩いて、プナンの人の足で4時間で到着すると言われたのに、結局11時間もかかって夕方着き、次の日は朝出発したので、サゴヤシから澱粉を採るところは、残念ながら見ることは出来ませんでした。


確か、ジャワ島で長く暮らしたことのある福家洋介さんの絵本、『大きなヤシの木と小さなヤシ工場』(平野恵理子絵、福音館、1992年)の中に、サゴ澱粉を採る絵があったはずと見てみました。


ヤシから澱粉を採っていますが、サゴヤシではなく、なんとサトウヤシでした。

澱粉の採り方は似ているのですが、サゴヤシから澱粉を採っている写真がないかとネット検索すると、岡根谷実里さんの「世界の台所訪問」の中に、パプアニューギニアでサゴ澱粉を採る写真があったのでお借りしてみました。


大きく育ったサゴヤシを切り倒して皮をむきます。


つるはしのような道具で髄を崩し、さらに鉈で細かくします。


おがくずのように細かくなった髄に水をかけてもんで、繊維(メッシュ状になったバナナの皮)で濾しながら澱粉を抽出します。白い水が出なくなったら、新しいものを加えて、作業を続けます(現在は濾し布として、バナナの皮を使ったりせず、市販の布を使っているそうですが)。


そして、上澄みの水を捨てると、ヤシの葉の容器には澱粉が溜まっています。


これにお湯を加えてかき混ぜると、お餅状になります。2本の棒(箸)を使って、団子状に丸めます。
パプアニューギニアでは、取り分けるときは2本の棒を使っていますが、いったい何を使って食べたのか、残念ながら書いてありませんでしたが、サラワクでは先を割った1本箸で突き刺して、くるくるとからめ取って食べました。

サゴ澱粉は、生えている木からちょっといただくというものではなく、大きく育ったものを伐り倒してしかいただくことが出来ません。主食として食べるなら、野生のサゴの木ならどこにどんな木が生えているかを熟知して、絶えないように見守らなくてはならないし、実を拾ってきて栽培するなら、たくさんの木を育てなくてはなりません。


福家さんの絵本を読むと、ジャワではヤシ澱粉を食べるためにつくっているのではなく、売るためにつくっていて、売られた澱粉は、ビーフン、シューマイ、肉団子などに混ぜて、量を増やし、安くするために使われているそうです。

サラワクで、森を追われて定住させられたプナンの人々は今、いったい何を食べているのでしょう? プランテーションの下っ端労働者として使われ、インスタント麺などを食べているのかもしれません。

もしかしたら片栗粉にちょっと水を加えておき、そこに熱湯を入れてかき混ぜたらサゴ澱粉と同じようなものができるかもしれないけれど、試してみる気にはなれません。





 

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