中国人の友人に薦められて読んだ『貝と羊の中国人』(加藤徹著、新潮社、2006年)のあとがきに、
「この本は、『 漢文力』を読んだ新潮社の編集者から強く勧められて書くことになった」
との趣旨が書かれていました。
漢文と言えば高校の授業で習ったものの、その後の生活では忘れ果ててしまったものです。ところが、『貝と羊の中国人』の本文に、「江戸時代に将軍から庶民まで漢文の素養を身につけたことで、日本人というものが生まれた」と書かれていたことから、「へぇぇ、そうだったのか」と思っていたところにこのあとがきがあったので、『漢文力』(加藤徹著、中央公論社、2004年、2007年文庫化)を読んでみました。
『漢文力』という表題を見たり、表紙(南伸坊さんデザインなんだけど)を見ただけでは、おそらく読むことがなかったであろう一冊でした。
ところが読むと、『貝と羊の中国人』以上の面白さに、引き込まれてしまいました。
現在の、理不尽な戦争や虐殺が止まらない、核兵器や無人攻撃機などの殺戮兵器は日々開発され、それによって儲けている人や国がいて止まらない、汚染と天然資源の過収奪で環境破壊は止まらない、民族グループ間の交流が進んだのに人種差別が止まらない、子どもたちの抱える不安を払拭できないなどなど、心の中にわだかまってすっきりしない数々の事象を、数千年前の言葉が解明してくれるのです。
あまりにも面白かったので、目次だけ紹介させていただきます。
はじめに
第一部 内面と外面
第一章 自分という奇跡をかみしめよう
第二章 自己はどこまで他者を理解できるか
第四章 この世のすべては言葉で表せるのか
第五章 魅力と恐怖の秘密
第二部 あの世とこの世
第一章 死後の世界はあるのか
第二章 死者は二度殺してはならない
第三章 生まれてくる不思議、死んでゆく意
第四章 老いるということ
第五章 姥捨て山と二十四孝
第三部 自然と宇宙
第一章 大自然の掟(おきて)
第二章 宇宙人の目
第三章 推移の感覚
第四部 自分を生かす
第一章 学問の落とし穴
第二章 教養教育と専門教育
第三章 リーダーの条件
第四章 世に出る
第五部 文明のからくり
第一章 政治という怪物
第二章 文明の明と暗
第三章 中国古典の戦争論あとがき
という構成でした。
ところどころで、漢文と金子みすゞの詩を併記しているのも面白いところです。
第三部第二章の中の宇宙への問いかけというところを一部紹介すると、
われらの命は有限だが、知は無限である。有限の命で無限の知を追求する。危ないことだ。(荘子)
とか、
学ぶのをやめれば、心配事は何もなくなる。(老子)
と並んで、
星のかず 金子みすゞ
十しきやない
指で、
お星の
かずを、
かずへて
ゐるよ。
きのうも
けふも。
十しかない
指で、
お星の
かずを、
かずへて
ゆかう。
いついつ
までも。
と、書かれていました。
あとがきによると、『漢文力』は、著者が当時教師をしていた広島大学での講義、「中国文学の世界」の内容をベースに書き下ろしたものだそう、学生たちは楽しかっただろうなと、うらやましく思いました。
そして、『漢文力』のあとがきに、この本では触れることのできなかった近現代の中国人のものの考え方や社会については、『京劇ー「政治の国」の俳優群像』を読んで欲しいと書いてあったので、『京劇ー「政治の国」の俳優群像』の文庫版を、また注文してしまいました。
なお、『漢文力』は、2005年には韓国語訳が、同年10月には中国語訳が、それぞれ韓国と中国で刊行されたそうです。韓国は漢字を捨ててしまっていますが、専門書などには相変わらず使われています。3つの国で『漢文力』が読まれることは、とても素敵なことに思えます。




























