「これはやなぎだろうか?」
という質問を、この籠がやって来たところの新潟県の骨董屋さんに投げかけたところ、
「この、新潟県の海岸地方で使われていた「テゴ」は、やなぎ製ではなかった。カズラです。ハマカズラを使っているものらしい」
との、お返事をいただきました。
「テゴ」とは、九州などで広く使われている籠を指す言葉ですが、新潟、石川など日本海側の地域で「テゴ」と呼ばれる籠は、筌(うけ)などは含まず、この形、すなわち背負い籠にもなる手提げ籠のことを指すと知りました。
このテゴをつくり、そして使っていた地域の方々が、籠の材料をカズラ、あるいはハマカズラと呼んでいることには間違いないのですが、ハマカズラという名前の植物はありません。
日本に自生するハマ○○カズラとしては、
ハマネナシカズラ(浜根無し葛
ハマサオトメカズラ(浜早乙女葛 Paederia scandens(Lour.)Merr. var.maritima(Koids.)H.Hara)がありました。
ハマネナシカズラは、近年各地の浜で増殖して問題になっているアメリカネナシカズラによく似ていますが、れっきとした在来種で、本州中部地方以西に自生していましたが、今は絶滅危惧種となっています。
また、ハマサオトメカズラはヘクソカズラの仲間で、こちらは本州から沖縄にかけて、今でも自生しています。
ここで、籠材料のカズラとして一般的なアオツヅラフジを検索してみました。
浜に生えているかどうかは知りませんが、どこにでも生えていて、良質のカズラが採れます。
我が家にも、勝山の川元重男さんのカズラで縁を留めた籠があります。
しかし、ツヅラフジだけで籠を編んだ場合、なんとなくいびつな、手作り感いっぱいの籠しかできないと、勝手に思っていました。
ツヅラフジは、その昔、衣装を入れる葛籠(つづら)を編んだのでツヅラフジという名前がついたそうです。
オオツヅラフジとアオツヅラフジがあり、オオツヅラフジの蔓は太く、アオツヅラフジはそれより細い蔓が採れるようでした。
そして、とうとう見つけました。
秋田で編まれたというアオツヅラフジのテゴ(テゴとは書いてなかったけれど)の写真です。かすかに見える縁の感じも、私の手元にあるテゴとよく似ています。
これも秋田のテゴ、同じ素材で間違いありません。
「やったぁ!」
超すっきりしました。
それにしても、あのありふれたアオツヅラフジからも、熟練の職人さんが編めばこんな美しいテゴができる、驚きでした。
もちろん、ふごもアオツヅラフジでしょう。
さて、余談ですが新潟つながりで、一冊の興味深い絵本、『たくさんのふしぎ』があります。
『山里でくらす・中ノ俣の一年』(佐藤秀明文、写真、福音館書店、2021年5月号)です。
一番近い高田市まで、山また山を越えていく山の中の村、中ノ俣の生活を15年ほど追った写真集で、人口100人ほどの中ノ俣では、昔ながらの暮らし方がつい最近まで色濃く残っていました。
冬は深い雪に覆われますが、先祖の開いた小さな棚田を耕し、山菜やきのこで保存食をつくり、みんなで助け合って、お祭りは盛大に行い、楽しく暮らしています。
そこでつくられている稲わら細工の中に、ふごがあげられていましたが、テゴはありませんでした。
もちろん、テゴの写真がないからといって、中ノ俣でテゴがつくられたり、使われたりしてていないということにはならないのですが、どうなのでしょう?
テゴがどんな地域、あるいはどんな地形の場所で使われていたか、ちょっと気になっているところです。
このテルミさんの写真は、背負っているのはテゴではなかろうかと眺めたのですが、バンドリの可能性の方が大きいような気がします。
バンドリとは、重い荷物を背負ったとき、背中が痛くないように荷物と背中の間に背負う緩衝材のこと、たいていは稲わらでつくります。
上は、中ノ俣ではなく新潟県石原の、テゴを背負った女性の写真です。
石原は三面川流域にあり、村上から少し上流に行ったところ、この籠をテゴと呼んでいます。
海辺の村で使われたカズラのテゴは、丈夫だからカズラでつくられたというより、稲わらが手に入りにくかったからかもしれません。
テゴとは素敵な籠、稲わらでつくられるのが最も一般的だけど、ガマ、スゲ、そしてアオツヅラフジでもつくられていた、興味津々です。
4 件のコメント:
おはようございます。
新潟県内の海岸でアオツヅラフジはよく見かけました。浜に生えるからハマカズラなんですね。
ここのブログは春さん始め皆さんの裏付けが確りですね。
かねぽんさん
おう、そうでしたか!それでは間違いないですね。よかったぁ!
カズラですから、そして浜に生えているのだから、地元の人はいちいちアオツヅラフジなんて言わないことでしょう。ハマカズラ、よい呼称です。
それにしても、アオツヅラフジおそるべし。とっても素敵な蔓です。
昭ちゃん
適当にしつこいところが、ミソです(笑)。
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