この箱を見て、すぐに何の箱かわかる人は、少なくなったに違いありません。
まだ、既製服を売ってないころ(1960年代初頭まで)、洋服はデパートで見本を見て注文するか、仕立てのできる人に頼むか、それとも自分でつくるかしかありませんでした。
あちこちの目抜き通りに布屋さんがあって、布を巻いたものを、店頭にうずたかく積み上げていました。布屋さんでは、暑くなると木綿など涼しい布を、寒くなるとウールなど暖かい布を売っていましたが、季節はずれには置いていません。例えば、冬に木綿を買おうと思って、何軒もの店を回っても、どこにも売っていないという時代でした。
誰もが布を買うと、布地屋さんの一角か、あるいは手芸材料専門店に行って、その布に合うボタンを買いました。
そんな、ボタンがこの箱に入っていたのです。
蓋は薄紙を貼って糊留めしてありますが、箱はホッチキスで留めただけの簡単なものでした。
そして、箱のふたの一面には、見本のボタンが綴じつけてあったのです。
見本と同じボタンが箱に入っているので、客が「これが欲しい」と指さすと、お店の人は箱ごと抜き取って、中から必要なだけボタンを取り出してくれました。
大きい店では、この箱をずらっと、百も二百も並べて重ねていました。千種類以上ものボタンを売っていたのです。
この箱は、こまごまとした古いものを売っているお店、「あんてぃかーゆ」で買い物をしたとき、包装箱として送られてきたものです。もっと大きいものを買ったときは、景品のコップの箱など、何かしら昔使われていた箱で送られてきました。
感心するのは、よくそんなに箱を取っておくスペースがあるということです。私など、箱が面白いから取って置こうと思っても、ついつい置き場に困って、思い立ったときに処分してしまいます。
そんな中、ボタンの箱は小さいので、今まで処分を免れて、三つになっていました。
捨てようかどうしようか、迷いながら手持ちのボタンで遊んでみました。
一気にかわいらしさと懐かしさが増しました。
鉛筆の形のボタンは、息子たちが小さいころ、服に飾りとしてつけていたものです。飾りならいいけれど、丸いもの以外は着脱が面倒で、ボタンとしてはとても使えないことを学んだのはこのボタンだったかもしれません。
猫模様の竹のボタンは、そういえば以前あんてぃかーゆで買ったものでした。
戯れに遊んでみたのですが、しばらくこのままにしておくことにしました。