2011年1月14日金曜日
団扇
先日訪問した、つくばの知人の庭に、地面近く、草屋根と萱屋根で、小屋が組まれていました。
近づいてみると、中は竪穴で、囲炉裏がつくられていました。素敵な宴会場です。
傍らに、杉の板でつくられた。火起こしのうちわが置いてありました。
昔、風呂場やかまどのそばには必ず置いてあった、渋うちわを思い出しました。渋うちわは、もう長い間見ていません。
これは、ヤシの葉を編んでつくったカンボジアのうちわです。タイなど東南アジア一帯に、これと同じようなうちわが、広く見られます。
あんまりありふれていて、なんとも思っていませんでしたが、よく見ると、しなやかで、美しいうちわです。
20年ほど前に、バングラデシュからの帰りに数日泊まった友人が、置いて行ったうちわです。
その昔、インド映画の監督、サタジット・レイの、オプー三部作(大地のうた、大河のうた、大樹のうた)を一挙に続けてみたことがありました。
貧しい少年のオプーが大きくなり、級友の結婚式に出席していたとき、花嫁の行列が到着する前に、級友が急死します。このままでは花嫁は、出てきた家には帰れないし、婚家となる家にもいられない、しかも一生結婚もできないと頼み込まれ、独身で階級もつりあうオプーは、思いがけなく、結婚することになります。
花嫁にとっても、オプーにとっても、苦渋の選択でした。
最初、カルカッタの貧しくて汚い一部屋に連れてこられた、裕福な育ちの花嫁は、泣いてばかりいます。が、やがて二人は愛し合うようになり、つかの間の楽しい生活を送ります。
床に座って、オプーがご飯を食べる間、花嫁は、この丸いうちわでオプーを扇ぎながら、楽しそうに会話しています。柄に差した竹の筒を持って、くるくると回して、風を送ります。
二人きりで暮らす夫と妻が、別々にご飯を食べる不思議さと、回転するうちわで、このシーンは鮮明に覚えています。
お産のときに花嫁は死に、幸せな生活は、あっという間に終わってしまいます。
この紙のうちわは、どうして手元にあるのでしょう? まったく記憶にないものです。いったいどこのものかも、わかりません。
もしかしたら、私が留守しているあいだに、息子が手に入れたものかもしれません。
竹を曲げて針金で留め、丈夫な紙を貼っただけのうちわですが、なかなかよい味を出しています。
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