骨董市でまことさんの店に寄ると、まことさんが嬉しそうに遠くから声をかけてくれました。
「見てない」
「ほらっ、そこにあるでしょう」
まことさんが指さした方を振り向いて見ても、招き猫はいません。
「えぇぇ、どこ?」
「そこ、そこ」
「あらぁ、わからなかった」
それは、招き猫が描かれた盃でした。
描かれているのは、丸〆猫に近い古型の招き猫です。
広重画、今戸焼 |
杯は、伊万里か、それとも瀬戸でつくられたものかもしれませんが、招き猫は今戸焼の猫に見えます。
「中は小判だよ。おしゃれでしょう?」
杯は6つありました
まことさんも初めて見た珍しい柄で、市では競って4000円で買ったとか、一つ1000円の値がついていました。
「800円でいいよ」
「それじゃぁ、私がたくさん買うともうからないわね。二つだけもらおうか」
「いいんだよ。好きなだけ持って行って」
「でも、5つもらって、一つ残すのも、困るでしょう?」
「あっ、その方がいい、一つ残して。それを1000円で売ってもうけを出すから」
というわけで、5つもらうことにしました。
「おかあさん、これ包んで」
と、まことさんが客の応対をしていたおかみさんに声を掛けます。
「あらぁ、売れちゃったの?」
なんだか、おかみさんの声が慌てています。私は、まことさんの陰から顔を出して、
「いただいちゃいましたよ」
と言いました。
「あぁ、よかった。私、他の人が買ってしまったのかと思ってびっくりした。お好きじゃないかと持ってきたんですよ」
そう、プレッシャーを掛けないように、傍らに隠しておくなんてことはせず、まこと屋さんでは何でも並べてしまっていますが、お二人で、持ってくる前から、これは私が買ってくれればいいと思っていたのだそうです。
「好きな人のところへ行ったと思うと、安心でしょう?」
ところで、水屋さんが、素敵な、猫背の黒い招き猫を持っていましたが、そちらは、写真を撮らせてもらっただけでした。
ちょっと傷がありますが、赤の色がよくて、ずっしり重くて、お値段も、なかなか張っていました。
猫はどこでも人気があるようです。
小鉢として使うか、招き猫コレクションとして展示室に収めてしまうか、思案のしどころです。
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