母屋の私の本棚は、できるだけたくさん入るよう、いろいろな高さにしています。
また、深さは大型本が収まるよう深くしてあるので、小さい本を、手前と奥と二列にしまったりもしています。
内容や著者によって、だいたいまとめて置くようにしているのですが、本の大きさで、別の場所にしか置けないこともよくあります。
そのため、ある本を探すとき、すっと出てくることもあるのですが、まぎれてなかなか見つからないこともあります。そして、前に探したときは見つからなかったのに、ほかの本を探していたら、ひょっこり目に入ったりする本もあります。
というわけで、別の本を探していたら、路上観察学会の赤瀬川源平と林丈二の本が、あちこちから出てきました。
林丈二さんの本については、『ガラクタ道楽』だけでなく、『閑古堂の絵葉書散歩』にも触れたことがありました。
『林丈二的考現学 屁と富士山』( INAX出版、2000年) |
ところで、林丈二さんとは、マンホールの蓋に注目した最初の人です。
今では、カラフルで装飾的なマンホールの蓋も多く、マンホールの蓋にはいろいろな種類があることを、知っている人も少なくないのですが、林丈二さんは、誰も注目していなかった30年以上前に、マンホールの蓋を面白がり、日本全国だけでなく、ヨーロッパのマンホールの蓋も見て歩いて写真に撮り、自費出版しました。
おもしろいと思ったことは徹底的にやる人ですから、見たマンホールの蓋は地図に落とし、各都市で路地を回って、もれなく記録されました。
彼が記録しなかったら、人知れず姿を消してしまっただろう、古いマンホールの蓋も、数多くあるようです。
ヨーロッパで靴底に挟まった石 |
林丈二さんは、自分が面白いことは、ほかの人にとっては価値がないものでも、とことん集中します。
アイスキャンデーの当たり棒といった、形のあるものは集めますが、店によって違うきつねうどんのおあげの切り方や、ヨーロッパのホテルでしたおならのは、集めることはできませんが、時間、形、場所、値段、音など、しっかり記録して残しています。
ロンドン、パリ、ローマなど、ヨーロッパの町を歩いて靴底に挟まった小石の収集も、小石が挟まりやすい、溝の深い靴を履いて行くという用意周到さ、そしてそれを、きれいに保存して、宝石のように愛でています。
かつて、電車の切符は改札口で駅員さんが鋏を入れてくれるものでした。
その切符を集めた人はいたかもしれませんが、林丈二さんは、切符ではなくて、切符の切り落としを集めました。
各駅の改札口のあたりには、駅によって形の違う切符の切りかすが、山のように落ちていましたが、それを黙って拾わず、ちゃんと声をかけてもらってきたのだそうです。
これを見ると、駅によって枚数が違いますが、ただ拾ってきたのではなくて、自分が利用したときに、一枚ずつ集めたのかもしれません。
『型録・ちょっと昔の生活雑貨』(晶文社、1998年)は、明治時代の新聞を読むことを喜びとし、明治から昭和の初期にかけての製品カタログを集めることに凝っている林丈二さんが、その中で見つけた商品を紹介している本です。
見たこともない西洋のものが入ってくる時代に、それを模倣し、工夫してつくられた、さまざまなものたち。
その、すでに消えてしまった幾多の「もの」が一冊の本の中に並んでいるのを見ると、中小の工場で一喜一憂して、ものづくりに励んでいた人々の、息遣いが聞こえてくるような気がします。
そして、「工夫に工夫を重ねたがる人間という存在は一体なんだろう?」と、人間の性に、ため息が出そうになります。
『道具の謎解き』(INAX出版、1997年)は、不思議な形をした道具が何に使われるか、見る人がなぞ解きをする本で、林丈二さんのほかに、柏木博さん、小林繁樹さんが、解説していらっしゃいます。
この本は、別の日に、改めて紹介したいと思います。
2 件のコメント:
赤瀬川源平は知っているけど林丈二さんは知りませんでした。
靴に挟まる小石の収集なんて変なの~。でも私が持っている溝が深い靴もよく1~2cmの小石が挟まって、家に帰ってから「ああ、あそこの石か」なんて思いながら棒で取ったりするので、ちょっと気持ちがわかります。
切符を切るのも駅によって形が違うなんて今まで知りませんでした!
コロツブってコルクのことなんですね。面白いー!
hiyocoさん
林丈二さんがどんなにユニークな人か、この本『林丈二』でもわかりますし、『路上観察学入門』でも、皆さんが熱く語っていらっしゃいます。自然体で「変な人」のようです(笑)。
息子も、私が赤瀬川源平を好きなのは知っていたけれど、林丈二については知りませんでした。
私はそんなに溝が深い靴を履いたことがなくて、小石がついてきたことがなかったので、???と思っていましたが、わざわざ溝の深い靴を選んで買うというのを知って、笑っちゃいました。
切符は懐かしいですね。キセル防止で、駅ごとにはさみの形を違えていたのですが、電車の中で、切り跡を眺めたり、四桁の数字を加減乗除で10にしたりして暇をつぶすのは、今考えると楽しかったです。中には切符切りがとっても素早い駅員さんがいて、惚れ惚れしました。
そんなこと、すべて消えちゃいましたね。いじめられて自殺を考えたりする子供がいますが、毎日変化も望めないと思っても、たった3年経てば、二度といじめっ子には会わなくなります。日常というのは、いつまでも続くと見えて劇的に変化していきますね。
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