2023年3月31日金曜日

投げ独楽


私が小さいころ、独楽と言えば投げ独楽、この鉄胴鉄芯独楽でした。
この独楽は、今から300年ほど前に、九州博多で考案されました。回転時間が長く、いろいろな曲芸遊びもできることから人気となり、広く全国で遊ばれるようになりました。
以前は愛媛の今治、兵庫、大阪などでつくられ、全国の玩具問屋に卸されて、駄菓子屋、おもちゃ屋、何でも屋などで売られていましたが、製造業者が次々と廃業、たった1軒だけ残っていた兵庫県加西市のタワミ玩具も2019年に廃業して、投げ独楽の製造者は消えました。

小学生のころ、学校から近いところにあった何でも屋は、よく話に聞くような、子どもたちをかわいがってくれた駄菓子屋さんとは大違いで、不愛想なおばさんにびくびくしながら品物選びをするような店でした。それでも、子どもたちを惹きつけるものがいっぱいある、ワンダーランドには違いありません。
建てつけの悪い戸をガタピシ開けると、薄暗い埃だらけの棚に、ノートや肥後守など文房具が並んでいて、独楽やろうせき、石けり、うつし絵などのおもちゃの入った紙の箱も土間近くに積み重ねられていました。また、夏には七夕飾りや花火、冬には奴凧などの季節のおもちゃを、薄汚れたガラス窓の近くなどにぶら下げて、子どもたちの目を引きました。
男の子たちは半分錆びたような投げ独楽をじっくり選んで買い、油をしみ込ませたり鉄輪を石でこすったりして自分好みに育て、冬が来たら校庭で長回し競争をしたり、掌の上に落としたり、綱渡りをさせたり、放り上げて紐で受け止めたりと、腕を見せるのです。そんな独楽も暖かくなるころには下火になり、休み時間にはドッジボールに興じたりすることになるのですが。


ところで、この、いろいろな遊びのできる投げ独楽は日本だけのものだそうです。
私は昔取った杵柄で、投げ独楽はよく回せると自信を持っていましたが、やってみるとなんだ、3回に1回しか回せません。
そして、地面で回せるだけで、もとから手乗せも綱渡りもできないのです。


投げ独楽は回すことができますが、鉄輪が分厚く鉄芯も太いけんか独楽となると、何度試みても回すことができません。
形としては投げゴマより味がある鉄胴鉄芯独楽は、投げ独楽のように腕を横に振るのではなく、上から下へと叩きつけるように回すのがコツですが、上から下の距離は短いし(高いところから落とす?)、重力はあるし、独楽は重いし、どう練習しても回せません。
投げ独楽は日本だけのものですが、けんか独楽は世界中にあります。木のけんか独楽だったら、私にも回せるでしょうか?
鉄輪は、砂型という型に溶かした鉄を流し込んでつくっています。これも全国でつくられたのか、岩手県など鉄鋳物の産地でつくられて全国に送られたのか、興味深いところです。


ところで、エジプトなど古代遺跡からも出土される独楽は、世界のどこか特定の場所で生まれたのではなく、いろいろなところで自然発生的に生まれたのではないかと言われています。

日本玩具博物館より。左からブラジル、パプアニューギニア、インドネシア、日本

というのは、独楽になる木の実はどこにでもあったからです。

投げゴマを回すと、今はもうおじいちゃんになってしまったであろう、綱渡りをしたり、手糊をさせたりしている、昔の男の子たちの得意げな顔が目に浮かびます。







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