2023年11月25日土曜日

薬用植物と毒草

かつて、マレーシアのサラワクの熱帯多雨林に原生しているフタバガキ科の木が、日本の企業によって、盛んに伐採されていた1990年ごろ、森とともに生活していたマレー先住民の人たちに連帯して、熱帯多雨林を守ろうとする運動が、日本でも細々ではありましたが行われていました。 

その一環で、NGOの人、ジャーナリスト、弁護士、医師など数人で、バラム川流域にあるカヤン人の村を訪ね、そこから狩猟採集民のプナン人の案内で、プナン人の定住場所としてつくられたロングハウスまで熱帯林の中を歩いたことがありました。
プナンの案内人に約4時間と言われた行程は、私たちの足が遅くて、11時間かかりました。4人の案内人とともに、時には谷川の中を歩き、時には丸木橋を恐る恐る手を引かれて渡り、ちょっとした登り坂にあえぎ、行きはとくに青息吐息でした。
防水加工された登山靴には、せせらぎの中を歩くたびに水が入り、最初のころは休憩のたびに、靴の中に入った水を捨てて履きなおしていたものの、やがて足が膨張して脱ぎにくくなったため水を捨てるのをやめ、後半は靴の中でちゃぷちゃぷと水が動くのを感じながら、暗くならないうちにたどり着きたいと、ひたすら歩いたものでした。

熱帯多雨林の中は、ところどころに谷川や低い丘があるものの、四方を眺めまわしても同じ景色で、一人で歩けば、ものの数十メートル歩いただけで迷子になってしまいます。下枝のない高木や中高木がぽつんぽつんと伸びていて、それが遠くまで重なり合って、遠くまで見えるものの、遠近の幹でどこまでも埋め尽くされている空間、方向感覚は完全に失われます。
高木の下に生えている低木や草類は、生息条件が似ているからか、どれも同じような葉っぱをつけています。天を仰いでも、樹冠に完全に覆われて空は全く見えず、樹上に暮らしている動物たちも見えず、ただキーンという、人間の耳にはやっと聞こえるような高い周波数のセミの声だけが響いていました。

やっとのことでプナン人が押し込められているロングハウスに到着して靴を脱いだ時、足はふやけてしわしわで真っ白、疲れ果てていましたが、大勢の方たちにいろいろな話を聞いたり、プナンが主食としていたサゴヤシをいただいたりして、ほっとする夜を過ごしました。
そのとき、
「森の中で、野菜として利用している植物は何種類ぐらいありますか」
と訊いたら、みんなで指折り数えたり名前を出し合ったりして、30種類ぐらい上げてくれました。
「では、薬用植物としては何種類ぐらい利用していますか?」
と尋ねると、顔を見合わせて、次いで大笑いされてしまいました。
「そりゃぁ、いくつあるか、数えきれないよ」
「そんなもの、数えられないよ」
薬として、食べられる植物と同じくらい利用していると思ったのに、答えは思いがけないものでした。
そんなに薬草として使える植物があるんだ! ビックリでした。


782ページと分厚い『原色牧野和漢薬草大圖鑑』(三橋博監修、北隆館、1988年)に掲載されている薬用植物は1339種類もあります。これをみても、世界で先人たちがどれほど多くの薬用植物を見つけ、利用していたかがわかります。
薬用植物だけでなく、衣食住に役立つ有用植物に範囲を広げると、人の歴史とは、植物とのつき合い方を追求した歴史だったような気がします。
『原色牧野和漢薬草大圖鑑』のほかにも、いくつか薬草の本が手元にあります。


古い植物画を集めた『花の王国・薬用植物』(荒俣宏著、平凡社、1990年)。これは、『有用植物』、『園芸植物』、『珍奇植物』と合わせた4冊組で、大好きな本です。


『MEDICINAL PLANTS』(GEORGE GRAVES著、イギリス、1990年)はヨーロッパの植物中心ですが、熱帯の植物にも触れています。


『MEDICINAL PLANTS』(1987年)は、タイで開かれた薬草に関する国際会議の報告書です。


単色で、絵はそう楽しめないものの、熱帯の薬用植物を集めている点で役に立ったし、興味深い本です。
カンボジアの農村で野生のグラリオサを見たときには、「おぬし、雑草だったのか」とびっくりしましたが、薬草と知ると、なおびっくりです。


さて、薬用植物の本も面白いけれど、毒を持った植物も面白い。『毒草の誘惑』(植松著、講談社、1997年)に掲載されている毒草のほとんどは、薬用植物の本に、薬用植物として掲載されているのが面白いところです。少量使うと薬になるものが、大量に使うと毒となるのです。





写真は上から順に、『原色牧野和漢薬草大圖鑑』、『花の王国・薬用植物』、『MEDICINAL PLANTS』、そして最後は『毒草の誘惑』に掲載されているチョウセンアサガオです。


毒草で有名なトリカブトも立派な薬草、『原色牧野和漢薬草大圖鑑』には詳しく効能が記されています。


『花の王国・薬用植物』では、フランスのヨウシュトリカブト(右)とともに、江戸時代の日本の絵も掲載されています。


『MEDICINAL PLANTS』のトリカブトも洋種です。


そしてトリカブトは、もちろん『毒草の誘惑』にもとり上がられています。







2 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

複数の本で同じ植物を見比べるのは面白いですね!どれも絵が魅力的です。

さんのコメント...

hiyocoさん
牧野さんをはじめ、植物画が素敵に描ける人、うらやましいですね。
きっちり正確に描かれているのもいいけれど、古い、昔の絵師のバランスがおかしい絵も大好きです(^^♪