2020年12月1日火曜日

瀬川康男の絵本



以前、『ぼうさまの木』について、書いたことがあったと昔のブログを見てみたのですが、平敦盛の土人形について書いたときに、ちょこっと登場させていただけでした。
『ぼうさまの木』(松谷みよ子文、瀬川康男絵、講談社、1971年)は、松谷みよ子さんと瀬川康男さんのコンビで書かれた「日本のむかし話」シリーズの中の1冊で、『はなさかじじい』や『さるかきがっせん』などよく知られたお話を中心に全8巻となっています。
息子たちが小さかったころ、私はこの本が欲しくて近所の本屋さんに注文しましたが、すでに絶版で手に入らないとのことでした。今と違って、古い本を探そうと思ったら古書店を足で回らなくてはなりません。もしかして出版社にはまだ残っているかと電話してみると、社に来るなら閲覧させてあげると言われ、東京護国寺にある講談社まで、当時住んでいた東京の郊外から出かけていきました。夢中で見入っていると、電話で応対してくださった方が、
「売ることはできないけど、何冊かあるからよかったら持っていてもいいですよ」
と言ってくださいました。
夢のような展開、さっそくお借りして帰ったのですが、私の幸せは長くは続きませんでした。どのくらい経ってだったかは忘れたけれど、まもなく電話がかかってきて、あの本を返して欲しいと固い声で言われました。貸してくださった方の一存でしたことが上司の方に叱られたのか、何だったのか、理由はわかりません。残念でしたが、私はすぐに本を送り返しました。
まもなく、家族でタイに引っ越しし、子育ても一段落した私はあれこれ忙しくなり、『ぼうさまの木』のことはすっかり忘れてしまっていました。

思い出したのは、21世紀になってネットで古い本が手に入るようになってからでした。Amazonで見つかったのは講談社版ではなく、2002年に出版されたフレーベル館版の『ぼうさまの木』でした。表紙も同じなので中身も同じだろうと、30年ぶりに手に入れることができました。
その後、講談社版の『ぼうさまの木』も見つけることができました。絶版となった1971年版ではなく、1985年に新装版として再発行されたものでした。


講談社版(右)とフレーベル館版を比べると、フレーベル館版の方がちょっとだけ小さくつくられていて、「日本のむかし話」ではなくて、「にほんむかしばなし」という8冊シリーズになっていました。
講談社では、版を重ねたのではなくなぜ新装版になったのか、版元がなぜ講談社からフレーベル館に代わってしまったのかは不明ですが、この間、カラー印刷や本づくりの方法は大きく変わったものとは思われます。
フレーベル館版は、タイトルの字が講談社版の活字(風)から「瀬川文字」になっているし、

上はフレーベル館、下は講談社

本の見返しは晩年の瀬川さんらしい絵に差し替えられています。


『ぼうさまの木』は、ひどく雨が降った年に、わたしもりが流れてくる木でも拾おうかと舟を出したところ、竿に死んだぼうさまが引っかかったことからはじまります。
わたしもりが、川のほとりにぼうさまの亡きがらを埋めたところ、そこに芽が出て木が生えて、木は見る見るうちに大きくなります。


その木には、人が手を広げたほどの大きな花が咲き、


花の上には、手に手に楽器を持ったぼうさまが座っていて、音楽を奏でます。
この珍しい木を見ようと、遠くからもたくさんの人たちが押し寄せ、わたしもりは大忙しになります。
本の中ほどに、開いてみることができる個所が2か所ほどあります。


花に座ったぼうさまたちは、花に乗ったままで木を離れ、川を流れていきます。


わたしもりだけでなく、村の人たちは、見物客に茣蓙を貸したり、スイカを売ったりして、懐が大いに潤います。


やがて、お正月が近づいたころ、ぼうさまの木には、子どもたちの喜ぶおもちゃや下駄などが生ります。そして、「饅頭が欲しい」といった子どもの手には饅頭が、「凧が欲しい」と言った子どもの手には凧が落ちてきます。
村のみんなに楽しい、お正月がやって来たというお話です。

ちなみに、表紙にもなっている舌を出しているのは秋田県能代の「女べらぼう凧」、盃を持っているのは香川県高松の「猩々凧(しょうじょうだこ)」、そしてセミも高松の「蝉凧」です。


今年は瀬川康男さんの没後10年の年、どの絵本も好きですが、どちらかと言えば晩年の抽象化されすぎた絵より、若いころの描き込まれた絵の方に惹かれます。

過去の記事の瀬川康男さん
電子書籍派?それとも紙の本派?
瀬川康男の犬棒かるた
ジャックと豆のつる



 

4 件のコメント:

昭ちゃん さんのコメント...

そうだね、今の子がスマホに驚かないもんね。
チョット内容・比較が異なるけれど、、、
何に感激するかなー  お金、お小遣いかな。

karat さんのコメント...

懐かしいですね。うちにも「おおさむこさむ」と「ことばあそびうた」「ことばあそびうた・また」がありました。
昔は、というか子供が小さいとき(40年くらい前でしょうか…)は、職場に絵本のセールスが来たり、保育園でも絵本の購入の機会がありました。
職場には子育て中の人が何人かいて、セールスも商売になったのでしょうね。あまり本屋で絵本を探した覚えがありません。そういえば本屋で買った絵本は「のりもの」とか「ガンダム」とか「仮面ライダー」「お姫様物」とかの厚紙の絵本です。子供と一緒に行ってせがまれのだと思います。
ことばあそびうた、は多分本屋で見つけて自分の趣味で買った気がします。(^^)。

さんのコメント...

昭ちゃん
何のお話かな?もしかして、子どもの貰いたいもの?
私だったらどれも欲しくて、迷います(笑)。

さんのコメント...

karatさん
「こどものとも」と「かがくのとも」は定期購読をしていたので、「おおさむこさむ」は自動的に来ました。「ことばあそびうた」「ことばあそびうた・また」は衝撃でしたね。もっと続きが出ないかないかと思いました。長男はどれも、ほぼほぼそらで言えてたんじゃなかったかしら。「いるかいないか、いないかいるか.....」なんて、今でもなんかの拍子に喉まで出てきます。
子どもたちが小さいころ、絵本はすべて私の影響下にあったと思います。仮面ライダーとかは買わなかった(笑)。それがテレビアニメの影響でドカベンを読み始めてからは子どもたちは漫画にシフト。私も子どもたちに影響されて、『がんばれ元気』とか『あしたのジョー』とかいっぱい読みました。