2024年4月13日土曜日

古いマトリョーシカ

しばらく前に事件がありました。


まさか、まさか出逢うことは一生なかろうと思っていた、セルギエフ・パサードでつくられた古いマトリョーシカと、偶然出逢ってしまったのです。
出逢ったとき、その、世界のビンテージ雑貨を扱っているネットストアーは休店中でした。他のものを検索して行きついたのに、検索していたものの方は吹っ飛んで、目はマトリョーシカに釘づけ、手に入れようかどうしようか、お店が再開するまでの10日ほど、悩ましい日々を過ごしました。と言っても値段は良心的で、「さして売れっ子ではない現代作家」の新作マトリョーシカと同じくらいのお値段だったのですが。


服装に十字架が見え、手に杖を持っていることから聖職者かと思いましたが、『ロシアのマトリョーシカ(スヴェトラーナ・ゴロジャーニナ著、スペースシャワーブックス、2013年)を見ると、これは「貴族」だそうです。
絵つけは焼きごてを使って、ウッドバーニングの方法で描かれています。


底にはMADE IN RUSSIAとのゴム印があります。
USSRでもCCCPでもなくRUSSIAですから、1917年のロシア革命以前、つまり1900年代初頭に輸出用としてつくられたものです。19世紀末に誕生したマトリョーシカは、1900年のパリ万国博覧会で一躍脚光を浴び、以後マトリョーシカは帝政ロシアの最大の輸出品の一つになりました。
『マトリョーシカ ノート3』を見ると、1910年当時のマトリョーシカは、底部分を黒く彩色したものや、「foreign made」とゴム印が押されたものがあったそうで、MADE IN RUSSIAのゴム印についての記載はありませんでした。


一番大きい貴族の下半部の内側には、サインのようなものがありました。
数字にも見えるけれど、サインではなくて落書きかもしれません。


5体しか存在していませんでしたが、最小のマトリョーシカも上下に分かれるので、その中にもっと小さいマトリョーシカたちがあったことは確実です。当時は10体組みとか8体組みが一般的だったので、少なくてもあと3体、もしかしたら5体あったはずです。


マトリョーシカ制作の初期には、娘たちだけでなく、貴族、貴婦人、英雄などのマトリョーシカがつくられました。


100年以上の時を経て、なお瑞々しいマトリョーシカたち。


20世紀初頭の帝政ロシアの輸出品に、木綿のプリント布があります。ロシア更紗はしかし、その技術や品質からヨーロッパに市場を広げることができず、もっぱら中央アジアに輸出されました。
それに比べて、他国の追従を許さなかったマトリョーシカは、ヨーロッパをはじめ新大陸で、さぞかしもてはやされたことでしょう。

マトリョーシカに塗られた色は、深い深い美しい色です。化学塗料も出始めていたけれど、まだまだ自然塗料も多かった時代の、職人さんの力強い技と気持ちが伝わってきます。





 

6 件のコメント:

hiyoco さんのコメント...

「事件」という言葉に、春さんの興奮度が伝わります。
初期の方が娘だけではなくバリエーションがあったというのは面白いですね。

さんのコメント...

hiyocoさん
eBayとかチェックしているわけじゃないし、まさか出逢うとは思いませんでした。
なんか、江戸時代のお皿と聞いても、そんなものかと思うだけですが、古いロシアと思うと興奮してしまいます。
ロシアの木工技術はすごいですね。100年経っても狂わないなんて。
もちろん、日本には1200年以上前に百万塔をつくる技術があったのですが、今は木地師さんはほとんど消えてしまいました。ロシアにはいっぱい残っているけれど。

茶々丸 さんのコメント...

先日は今戸でガタガタと失礼しました。
僕もロシアには一度だけ行ったことがあり、
有名な木造教会だけでなく、農村の民家までも驚くべき精妙巧緻な技が見られ感動しました。
その時、マトリョーシカも吟味して選んだものの、最近、断捨離しました。
古作のセルギエフ・パサードというものは凄いものなのですね。
「深い深い美しい色」、画像でも十分に想像できますが、間近に拝見したいものです。

セルギエフ・パサードを画像検索しましたら、お店が出て参りまして、
スキットルズ 9ピンボーリング(九柱戯)が目に入りました。
僕は以前から「板人形」の類に興味があり、注目した次第ですが、
九柱戯人形は表情が乏しく、深い色という感じではないので、とりあえず画像だけ保存させて頂きました。

さんのコメント...

茶々丸さん
マトリョーシカには道上克さんという世界一のコレクター&研究者がいらっしゃって、『マトリョーシカ ノート3』とか『マトリョーシカアルバム』を上梓していらっしゃいますが、残念ながら今は手に入らないようです。
しかし、FBで「道上克マトリョーシカコレクション」を検索すると(現在は闘病されているので闘病日記がおもですが)、道上さんの膨大なコレクションの一端をのぞかせていただくことができます。
その中に板人形がUPされているかどうか、ざっと見返してみて見つからなかったのですが、道上さんは素敵な板人形も持っていらっしゃいます。
ロシアの木地仕事は裾野が広そうなので、いつまでも残って欲しいです。

karat さんのコメント...

facebook なら 超いいね💕 押すところです❣

さんのコメント...

karatさん
ありがとう、と言っていいのかな?(笑)
道上さんのFB見ていると、力をいただきます。私も頑張ろうとか、私も欲張ろうとか。ありがたいです。