「菊型」に編まれた籠です。
後列の2つは関東地方の飯籠、中列の左は熊本県水俣地方のご飯じょけ(飯籠)、右は宮崎県日之影のいりこじょけ(煮干し籠)、前列左は中国貴州省の蓋つき籠、右は韓国全羅南道潭陽(タミャン)の、おそらく飯籠です。
菊型編みは円の真ん中から編み始めるため、最初から経材(たてざい)を多く使えば、緯材(よこざい)が円の中心から遠くなってしまうので、最終的に使う経材の半分以下の経材を組んで編み始めます。また、少ない経材のまま編み進めると、だんだん広がっていく円に対して経材の密度が疎になって、形が取れなくなり強度も落ちるので、経材を途中で足します。そのため、裏表と裏には違った編み目ができます。
編み始めに組んだ経材が見える方を「A面」、足した経材が見える方を「B面」とすると、中国と韓国の籠の蓋は「A面」が外側になっていて、日本の籠は「B面」が外側になっています。
関東の飯籠の蓋は、どちらも経材のひご10本で編み始めています。
菊型の籠は編み始めに形を整えるのが難しい部分の一つですが、右の籠は最初から上下上下と編まず、特別に細いひごで複数段、上は上、下は下とひごを重ねて編んでいます。
左の籠はだいぶ編んでからひごを10本足していて、右の籠は早めにひごを10本足しています。
関東の飯籠の本体は、どちらも底を網代に四角く編み、渦巻き状に綾織りで編み進めて丸くしていく方法で編まれています。
蓋はかぶせ式です。
水俣の籠は、地元の籠師さんから籠づくりを習われた井上克彦さんにつくっていただいたご飯じょけなので、この地域の伝統的な形と見ることができます。
経材は8本から始めています。関東の飯籠の一つ(上から3枚目の写真)と同じように、編み始めは同じ経材に複数回ひごを通して形をつくっていますが、関東の飯籠とは比べものにならないくらい美しく円になっています。
途中で16本のひごを足し、足した後のひご数は、24本が真ん中で交差しているので、合計48本のひごで、高さがない胴へと向かっています。
ご飯じょけの本体は、米揚げ笊などと同じ「笊目」に編まれています。
違う編み方で編んだ本体と蓋ですが、井上さんの言葉で「かぷっ」と音を立てて、気持ち良くしまります。
その昔、『小さなむらの「希望」を旅する』(現代農業増刊、農文協、2005年)の中に井上さんのご飯じょけを見つけたとき、懐かしさでいっぱいで、すぐに注文してしまいましたが、よく考えてみると、私が小さいころ祖母の家で使っていた飯籠はもっと武骨なものでした。持ち手はついていましたが四角くて、蓋がない足つき籠で、曾祖母が編んだというススキの茎でできたすだれ状のものを蓋がわりにかけて、夏は風通しの良い天井の梁にぶら下げて、ご飯が悪くなるのを防いでいました。
日之影のいりこじょけも経材8本で始めています。
廣島一夫さんの籠と同じ形に、小川鉄平さんに編んでいただいたものです。編み始めは、緯材を上上上下下下と3本飛ばしで編んであり、数段進んでから上下上下と編み方を変えています。
そのあと、経材を8本足しています。
『日之影の竹細工職人 廣島一夫の仕事』(gallery KEIAN、2016年)より |
籠づくりの名人の廣島さんの菊型には、他の地方の籠でも編んでみて、さらにいろいろ工夫され、多種類の籠を編まれていたことに関係あるかどうか、いろいろな「収め方」があったようです。
シイタケを干すアマの「A面」。
イカシカゴ(生かし籠)の蓋はどうなっているのか、「B面」だと思われますが複雑です。
「A面」と思われる写真もあるのですが、どう編んであるのか、皆目頭が回りません。
ミソコシ(味噌漉し笊)の底も「B面」?
美し過ぎます。
いりこじょけは本体も菊型編みで、底は平らでなく内側に持ち上がっています。
さて、「A面」を外側にした中国の籠の蓋の経材は8本、編み始めから経材に、緯材を上下上下とくぐらせています。
経材8本だけで平らな部分をほぼ編み進み、胴に移る直前に8本の経材を足してあります。
興味深いのはやはり菊型で編まれた本体です。こちらは「A面」を内側にして、やはり8本の経材で編み始めています。
そして、胴に移る直前に経材を足しています。
補強のためか、足をつけた胴のはじまりの部分からは、外側にさらに新たにひごを足しています。
編んだ籠の上に足した経材は、補強と装飾を兼ねているのでしょうか?
竹の特性を生かした足や縁の、ひごと使い方の巧みさに見惚れてしまいます。
韓国の菊型の竹籠は経材がどうしてこんなに太いのでしょう?
経材の幅が太ければ、編み始めの円の直径が大きくなります。大きい円から始めれば編む部分が減り、時間が短縮されます。
経材のひごの数は蓋が6本、本体が5本、本体と蓋のひご数が違います。どうして数が違うのかと思ったら、どうもひごの数で、籠の直径の大小をつくっているようです。
韓国の籠は、蓋の裏、本体の底の「B面」が、あまり美しくない編み方になっています。また、竹皮のついたひごの使い方にも法則がないようです。
日本の籠では、経材の節をそろえて模様にしているのに比べると、ちょっと見劣りします。
でも、プラスティックの籠に押され、中国やヴェトナムから安い籠が大量に入ってくる韓国にあって、今でも籠師さんが健在なことを喜ぶべきでしょう。
皮のついていない竹での縁巻きなど、見事なものなのですから。
『世界のかご文化図鑑』(ブライアン・センテンス著、東洋書林、2002年)より |
ところで、東南アジアなどでは菊型編みを見たことがありませんが、中国、韓国、日本以外の地域でも見られるようです。
上の写真はアメリカ先住民のホピ民族のものですが、東アジアの菊型とは雰囲気が違います。
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