2013年1月14日月曜日
猪熊弦一郎の愛したものたち
友人タムタムさんが、以前雑誌『ミセス』に連載されていた「現代玉手箱」という表題の、画家の猪熊弦一郎(1902-1993)が部屋やアトリエに置いて愛でていたものたちの切り抜きの、ビー玉のペイジを送ってくれたことがありました。
これらの写真とエッセイは、のちに『画家のおもちゃ箱』という本になりました。本は今も手に入りますが、プレミアムがついていて、一冊が五万円もします。安く復刻版ができないものかと、復刊ドットコムに登録したと書いたら、復刊の可能性は低いだろうからと、タムタムさんが再度、他の切り抜きのコピーを送ってくれました。
もう二年半も前のことです。
猪熊弦一郎は1955年から、73年までニューヨークを活動の拠点にしていましたから、彼の部屋を飾っていたものたちは、アメリカの骨董屋さんで手に入れたものが中心です。
その中には、素敵なものがいっぱいありました。
これは、十九世紀の卵入れを、二つ縦につなげて壁に掛けたものです。
枠など直線の部分は薄い木でできていて、そのなかにボール紙を丸めたものが入れてあります。卵は梱包しにくいものですが、それだけに工夫された卵入れには、世界中に美しいものがあるような気がします。
シェーカー・ボックスは、いまでこそ日本でもつくっている方もいらっしゃるほどですが、雑誌に連載されたころ(本が出版されたのが1984年ですから、1980年ごろでしょうか?)、日本では見たことのある人はあまりいなかったかと思います。
猪熊弦一郎は、アメリカに行った当時から一つ、また一つと見つけて五年ほどかかって集めたが、二十年経った今では見つけるのが難しくなったと書いていますから、これらは1960年ごろまでに手に入れたものでしょう。
シェーカー・ボックスは、今はオーバル(楕円形)のものが主流です。オーバルは丸い箱より収納力があって、長方形の箱より頑丈だからだと、どこかで読んだ記憶がありますが、猪熊弦一郎のシェーカー・ボックスは、写真で見る限りほとんど円形です。しかも、今のように、つなぎ目をぎざぎざに組んでいなくて(上から二番目のオーバルの黒い箱はぎざぎざに組んである)、まっすぐに糸で綴ったり、簡単に釘打ちしてあったりします。古い時代のシェーカー・ボックスはオーバルより円形の方が多かったのかもしれません。
ターシャ・テューダーの写真集に載っていたシェーカー・ボックスも円形でした。
上段の犬屋さんの看板の犬の前に置かれた錆びた自動車は、チャールズ・イームズからのクリスマス・プレゼント、下の段の青い車は、アリゾナのゴーストタウンに捨てられていたのを拾ったものだそうです。金鉱ブームの頃のおもちゃが、打ち捨てられ、死んでいた家に転がっていたとか。
著名なデザイナーが選んだものと、拾ったものとを同等に愛でている姿勢が素敵です。
古いビンたち。
猪熊弦一郎自身はこれらのビンを骨董屋さんで買ったみたいですが、中には海岸に漂着したビンもあるそうです。
彼の友人にアーリーアメリカンのもので家を整えている芸術家がいて、その人とかかわるうちにアーリーアメリカンに関心を持ったとか。
アーリーアメリカンにも高級で貴族的なものと、庶民的なものがあり、猪熊弦一郎が好きなのはもちろん後者です。
使い古した、虚飾のないものたちをこよなく愛したそうでした。
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