2021年6月5日土曜日

ナガの籠


先日、手伝いに来てくれたKさんから、
「この籠は何ですか?」
と訊かれました。
「インド東北部に住んでいるナガの籠よ」


ナガの籠は2年前に手に入れたもの、作業棟の軒下の梁に台をつくって、落ちないように結びつけて置いていたのですが、大風が吹くと傾いていました。そのつど置き直していたのですが、籠も傷むだろうと、そこに置くのをやめて、何とか母屋の中に置き場はつくれないかと、しばらく前から土間入り口のあたりに転がしていました。
しかし、入り口では邪魔なのでストーブの前へと移動させていたので、Kさんの目に留まったようでした。


もし、母屋に置くならどこに置く?
棚はいっぱいだけど、詰めれば置く余地があるかな?
天井から吊るとなると、見上げるから、傾かないように適当につけた木の台は取った方がいいかな?それとも、逆さにして吊るのもあり?
などなど、籠を目につきやすいストーブの前に置いて、決定打が出てくるのを待っているのですが、なかなかよい案を思いつきません。


それに、樹液を塗って強度を出したのか、あるいは竈の上に置いていて煤がついたのか、黒くなっている籠の内側はちょっと汚くなっているので、室内に飾るなら洗った方がいいかもしれない。しかし、直径が56センチもある籠をどこで洗ったらいいか、などなど、ぐずぐずして早数か月、転がしたままにしていたというわけでした。


「どうしてこんなに下が細くなっているの?」
とKさん。
「推測だけれど、山の中に畑があったはずだから、急斜面を下るとき底が太いと邪魔なのよ。でもものはたくさん入れたいから、上の方は大きくなっているの。もしかしたら上が重い方が運びやすいかもしれない」
フィリピンの傾斜した道ばかりの北ルソンのサツマイモを運ぶ籠も、宮崎県日之影のカルイも同じ原理で、下が小さくなったり細くなっています。

1936年。ミレットの収穫

The Nagas』(Julian Jacobs著、USA)には、似た籠の写真が幾枚か載っています。
籠のわりと下の方から紐をかけ、額に掛けて運んでいます。

1985年

この写真の籠は、やはり紐は下から掛けているものの、途中にループをつくり、ループに紐を通して動きにくくしています。これなら紐がだらんとしないので邪魔にならないし、荷物を入れて背負ったときも籠がぐらぐらしません。
もっとも、さまざまな集落によって、籠、織物、木工品などは少しずつ違うので、2つのタイプの違いは年代による違いではなく、地域による違いの可能性もあります。


この籠には、わりと上部に2か所、ループがついています。

1948年

末広がり形の籠を編んでいると思われる写真を見ると、四角い底を編んだ後、別の籠を「型」として嵌めて、逆円錐形に広げながら編んでいます。、四隅で経材(たてざい)を足しながら緯材(よこざい)を上下上下と通す平編みです。
写真の説明には材料がCaneと書いてありました。
「えっ、サトウキビの皮?」
とびっくりしたのですが、辞書を引くと、用材としての「Cane」はサトウキビだけではなく、籐(ラタン)、竹、サトウキビなど節があるものの茎を指す、とありました。『The Nagas』の、竹で編まれた籠には竹と書いてあるので、この場合、Caneはラタンだと思われます。

Pitt Rivers博物館の収蔵品

あったあった、同じような形の籠が本に載っていました。


1936、7年ごろには、ナガたちは集落ごとに、昔ながらの生活を営んでいましたが、地球規模で伝統的な生活が崩れた1960年代には、ナガも大きな近代化の波を被ったに違いありません。世界を平準化する貨幣経済に巻き込まれて、伝統衣装や伝統行事を徐々に捨て、村を捨て、独自の世界観を捨てていったと思われます。


この籠は、骨董市でまことさんが持っていたものですが、古い小さい値札が残っていて、私の買った値段の6倍ほどの値段がついていました。値札に赤い丸のシールが張ってあったことから、日本での展示会で売られたものと思われます。
値札の裏には「ナガ 籠」と書かれていたので、持ち主が忘備のために残しておいたものでしょう。





 

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